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今日は一日、ヨセミテ国立公園の観光だ。昨日考えついた、グレーシャー・ポイントへバスで登り、ダウンヒルを自転車で楽しむという案を、地形図を見て検討する。グレーシャー・ポイントはさすがに高いところにあるので、復路はほとんど下りだが、ルートのピークは、グレーシャー・ポイントの少々手前にあることがわかる。全体では標高差1,000m以上の下りになるが、この部分の登りは標高差200mほどなので、これぐらいならなんとか登れるだろうと思い、決行することにする。 今日は、不要な荷物はYHに置いておけるので、身軽な装備で走ることが出来る。必要な地図や資料を揃え、標高の高いところに登るので、防寒用の衣類を着て、上着もカバンに詰め込む。YHを出て、砂利道を慎重に下って、バス停に向かう。 |
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バス停に到着すると、すでに2人バスを待っている人がいた。一人は日本人で、もう一人は、ヨーロッパの国から来た人のようだ。もちろん2人ともYHの宿泊者だ。日本人の若者と話していると、彼は昨日、アムトラックではなく、バスの周遊券でも持っているのか、グレイハウンド・バスで来たようだ。接続が悪く、マーセド駅でずいぶん待たされたとのことだ。定刻通りにバスが来たので乗り込む。 バスは、昨日の往路とではなく、帰路と同じルートを通るようで、マーセド川の反対側のバス停に寄ってゆく。ヨセミテの谷のどこかで働いている人なのだろうか、身軽な服装の人を数人乗せてゆく。自転車をそのままバスのトランクに乗せてから乗ってきた若者もいた。 バスは、ヨセミテの谷に入りヨセミテ・ビレッジの近くのビジターセンターに到着し、ほとんどの乗客がおりた。運転手に何処まで行くのか聴かれ、昨日と同じ終点、すぐ先のヨセミテ・ロッジだと答えると、「すぐ近くだけど、荷物があるからな。」と言うようなことを言っていた。そのまま乗っていると、なんと、バスはすぐにはヨセミテ・ロッジ方向ではなく、他の方向に走りだした。時刻表で確認すると、カレー・ビレッジ等に寄ってから最後にヨセミテ・ロッジにて終点となるようだ。昨日の往路のバスは、それらのバス停で降りる人がいない限り寄らないので、直接に終点に向かったわけだ。運転手の言ったことが今理解できた。 |
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一人のんびり乗っていると、終点の手前で停まって、運転手がトイレに行ってしまった。終点だと何かと作業があり、トイレに行く暇もないのだろうか。まあ、それほど急ぐわけではないので、いいかなどと思っていると、運転手が戻ってきたので、今日のコースについて尋ねてみる。バスでグレーシャー・ポイントまで行って、自転車で戻ってくることは可能か尋ねると、自転車は禁止だという。確認のつもりで、もう一度確認すると、少々怒った顔をして、公園内の全てのトレイルは、自転車通行禁止だと、強い口調で言う。これは登山道をマウンテンバイクなどで下ってくると勘違いされた様だ。私のはオフロードバイクじゃないし、バスのルート同じ所を戻ってくるのだというと、やっと理解してくれたようで、決まり悪い様子で、走れなくもないが、車が速く走っているので、危ないからお勧めしないとのことだった。 そうこうしている内に、終点のヨセミテ・ロッジに到着。自転車を組み立て、早速、グレーシャー・ポイントへのバスの片道チケットを買うため、チケット・カウンターに向かう。しかし、10時のバスは売り切れだとのこと。一人なので何とかならないかというと、すぐ前にそのバスが止まっているから、運転手に確認して空きがあるか尋ねてこいと言う。確認すると、満員ではないようなので、戻ってチケットを売ってもらう。ついでに、グレーシャー・ポイントにはレストランがあるか尋ねたら、スナックを買えるような売店しかないとのこと。地図にはレストランらしきマークがあったが、尋ねてみて良かった。それと、自転車で下ってくるのだが、道の様子はどうかと尋ねると、路肩が狭くて、自転車にはとても危険だという。私は、サイクリングを趣味にしていてあちこち走っているので大丈夫だといって、その場を離れるが、スタッフは心配そうだった。 ヨセミテ・ロッジの奥の土産屋に行き、ミネラル・ウォーターと、朝食も食べていないので、昼食兼用にと、マフィンを急いで買い込み、自転車を預けて、バスに乗り込む。なんとか間に合ったようでホットする。しかし、トランクが一杯で詰めきれないらしく、私の自転車も含め荷物を一度全て外に出してから入れ直しをしていて、結局10分ほど遅れてバスは出発した。 |
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| | 一気にバスで登った展望台Glacer Pointより |
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| YosemiteのシンボルHalf Domeを眺める人々 |
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グレーシャー・ポイントへ往復するバスは、一応ツアーバスという形になっているので、ヨセミテの谷を走っている間にも、あれこれ見える景色の案内をしてゆく。バスは谷を出る手前で、YHのあるマーセド川に沿ったルートから離れて、州道41号線に入るため、南の方角に曲がるのだが、ここの付近工事中で通行止めの時間があり、車で渋滞している。やっとその渋滞を抜けて、トンネルを通り、州道41号線で谷の裏側を大回りして、グレーシャー・ポイントへ向かうのだ。 州道41号線から、グレーシャー・ポイントへ向かうための道、グレーシャー・ポイント・ロードに入り、どんどん登ってゆく。復路はこれを自転車で下るのだと思うと楽しみだ。途中で、15人ぐらいの子供達の団体を下ろす。彼らは、ここから歩いて行くようで、沢山の荷物も彼らの物だったようだ。彼らのように、バスで登って歩いて下山する人が多いのかも知れない。ツアーバスなのに、片道切符を売っている理由も理解できた。 バスは、グレーシャー・ポイントに近づいたようで、ピークを過ぎて、道は下り始める。今までにない葛籠折れの道になり、急角度で下ってゆく。復路は自転車でここを登らなければならないので、すぐにグレーシャー・ポイントに到着することを祈るように、道を凝視する。 ほどなく、グレーシャー・ポイントの駐車場に到着。とても良い天気で、寒いどころか、暑くて防寒用の衣類は脱ぎたいぐらいだ。自転車を組み立て、展望台の方に歩いてゆく途中で、正面にどっかーんと、ハーフ・ドームが見える。そして、岩山や滝など、谷のほとんど全てを見渡すことが出来る最高の展望だ。写真を撮りまくるが、今日は、フィルムもいつもより多く携帯してきているので、心配はない。 結局、グレーシャー・ポイントの展望台に2時間近くいて、やっと出発。ここからは標高200mほど登りになるので、覚悟が必要だ。ギアを一番軽くして、ゆっくりこぎ出す。 |
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標高100mほど登ったところに、もう一つ別な展望台があるので迷わず寄って休憩する。ここの展望台ウァッシュバーン・ポイントは、グレーシャー・ポイントより、南に位置し、ヨセミテの谷の東側方面に展望が開け、マーセド川の上流にあるバーナル滝や、ネバダ滝がよく見える。 自家用車でこの展望台に来た観光客が、一段高い駐車場から展望台に降りてきたとたんに「キャーッ」と声を上げている。それだけ、すごい景色であることは、グレーシャー・ポイントと同じだ。帰路もバスならきっとここは寄らなかっただろうから、復路は自転車で良かったとつくづく思う。 |
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ウァッシュバーン・ポイントを出て、ひたすら葛籠折れの道を登ること、20分ほどでずいぶん登りの角度は緩くなった。しかし、まだ微妙に登っていて、ほとんど平坦になったかと思いきや、また登りが始まるというくり返し。なかなかピークを越えない。 頑張って走っていると、いつの間にかピークを越えたのか、徐々に下りになってきた。ピーク付近は、道の両側には、残雪が見える。久しぶりに見る雪だ。などと思いながら、ペダリングを止めて、ゆっくり下っていると、やっとハアハア言う息がやっと治まってきた。車も話に聞くほど多くないし、道幅も、日本で走っていれば当たり前の狭さの山岳道路だ。これを道幅が狭いから自転車は危ないと、地元の誰もが言うのは、他の道が自転車に優しくできていたり、自転車専用道路が多い、カリフォルニアならではなのだろう。 |
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グレーシャー・ポイント・ロードを南に移動するにつれ、ヨセミテの谷の展望からは遠ざかるが、森の中を抜けるとても気持ちの良い下りである。途中、登山道の入り口の駐車場を過ぎて、下っていると、何度か少々の登りの区間があったが、全体的にはどんどん下りなので、それほどペースを落とすことなく、こなすことが出来た。それにしても長い下りだ。もう、州道41号線に出る頃だと思うがなかなかT字路には到着しない。少々森が開けたと思ったら、湿地帯が見えてきた。モンロー・メドウだ。休憩がてらに、自転車を止めて、写真など撮影する。 |
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やっと、州道41号線とのT字路に到着。なんと、下り初めて1時間以上かかっている。そういえば、この自転車でこれだけ長く下るのは初めてだ。下りの迫力は十分だが、スポーツ車ではないので、スピードが体感する程は出ていないのだろう。 |
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| Waona Tunnelの東側の"Tunnel View"から見るYosemiteの谷 |
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州道41号線に入ると、道幅は太くなるが、交通量は増える。ずっと下りなので、スピードはそれなりに出ているので、抜いてゆく自動車に気を付けて走る。途中、下りが緩くなったところに、自動車が止まっていて、乗っている人が窓越しに私を呼び止める。グレーシャー・ポイントに行きたいが、この先かというので、もうずいぶん前だと教えてあげる。 快調に下ってゆくと、自動車が駐車できるような広さの路肩が左側にあり、一種の展望ポイントのようで、ここからヨセミテの谷も見える。左側の谷を見下ろすと、マーセド川が見え、YHの方面に向かう州道140号線も下の方に見える。 そこから下ると、すぐにワオナ・トンネルがあり、それを抜けると、ヨセミテの谷全体を貫くように見ることのできると聞く、トンネル・ビューという展望台が現れた。大きな駐車場があり、観光バスも沢山止まっていて、沢山の観光客が展望を楽しんでいる。正面手前には、ブライダル・ベール滝が見え、左側には巨大な岩山、エル・キャピタンがそびえ、奥には、ヨセミテのシンボル、ハーフ・ドームが有るという完璧とも思える構図だ。もちろん絶好の写真撮影ポイントでもあり、それなりの機材を構えた写真家も見受けられる。しっかり写真を撮ってもらおうと思い、良いカメラを持っている人に一眼レフカメラを渡して撮影をお願いした。 いつまでも眺めていたい、ここトンネル・ビューからの眺めだが、予定より時間が押しているので、ヨセミテの谷を目指して下りを再開する。 |
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ワオナ・トンネルはヨセミテの谷の入り口でもある。いよいよヨセミテの谷を見ながらの下りが始まったわけだ。右前にはブライダル・ベール滝が近づいてきて、左側には、エル・キャピタンの巨大な岩が立ちはだかるようにそびえる。木々の間から、そのような景色が見えるたびに感動してしまう。昨日、ゆっくりと谷の中を走って景色を見たのとはまた違った感動だ。 右側に、ブライダル・ベール滝の展望ポイントのための駐車場があったので、小休止して、ブライダル・ベール滝の写真など撮影する。予定より遅れているので先を急ごうと思いつつ、見ているうちにもっと近くで見てみたくなり、駐車場を抜けて、自転車を押して見に行く。自転車をトレイルの入り口に止めて少々歩くと、ブライダル・ベール滝の落ちる近くにたどり着いた。水量が多いので、水しぶきがかなりの量だが、そのおかげで、虹が見える。 |
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ブライダル・ベール滝の展望所の駐車場から出ると、今度は、エル・キャピタンの岩山がどんどん迫ってくる。エル・キャピタンは、マーセド川を挟んで谷の反対側に位置する。州道140号線と繋がっている三叉路を過ぎると、道は一方通行になり、道がヨセミテの谷へ下りきったことがわかる。 突然森が開けて、エル・キャピタンの隣にあるリボン滝の展望ポイントに到着する。広くなった道の路肩などに自動車を止めて展望を楽しんでいる人が数人いた。 |
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| 団子ではなく三角おにぎり三兄弟?Three Brothers |
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エル・キャピタンに続いて、スリー・ブラザーズと呼ばれる、三角形の岩の突起が3つ繋がった岩山が見えてきたので、写真を撮って、先を急ぐ。朝、バスの中でマフィンをかじったのと、道中チョコレートをちびちび食べているだけなので、もっとまともな食べ物を食べるべく、ヨセミテ・ビレッジに向かう。 ヨセミテ・ビレッジに着き、ファスト・フード・レストランがあったので入ろうとすると、ちょうど閉店の時間だった。仕方なく、土産屋に入って、簡単に食べられそうな物を探すがないので、例によって、チョコレートなどを買い、ついでにTシャツなどの土産を手にとって、レジに向かうと、沢山あるレジのうち1つしか使っていず、列が出来ている。そんなに長い列ではないが、みな夕食の準備か、山盛りの買い物をする人ばかりだ。やっと支払いを済まして、店の外のベンチで購入したアイスクリームをかじって、チョコレートを口の中に放り込む。 これから、YHに戻るには、昨日のように、バスを使うという選択肢もあるが、もうこの時間だと、昨日と同じバスになってしまい、豪華な夕食にはありつけないので、自転車で行くことに決める。バスよりたったの30分早い出発だが、下りでもあるし、バス停には寄らないので、なんとかなりそうだと思い走り始める。 ヨセミテ・ビレッジから、西に向かい、ヨセミテの谷の出口をめざすが、思ったより距離があり、下り基調であるはずの道もまだまだ平坦のため、思ったより先に進まない。それでも、谷を出たとたんに、すごい下りが待っていて、緊張しながら、一気に下る。 |
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| Yosemiteの谷の外にある滝などをじっくり見るには自転車が最適 |
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右側に滝が見えた。小さな駐車場があり、車も止まっているので、小休止がてらに寄ってみる。聞いたことの無い滝の名前だし、注目度の低い滝なのだろう。バスで帰る場合はもちろん寄ってじっくり眺めるなんて事は出来ないだろうと、自転車で下ってきたのを少々喜ぶ。 さて、ここからが長い。ひたすら下って、やっと国立公園ゲートを通過した。地図で現在位置を確認して、まだこれだけしか来ていないのかと愕然とする。マーセド川沿いの道は行き交う車もだいぶ減り、寂しくなってきた。しかし、パトカーが沢山止まっているところがあり、人だかりがしている。川の方を見ている人が多いので、自転車から降りて、何があったのか、近くにいた婦人に尋ねると、川を指さして、車が落ちているという。見ると、水面下に自動車がひっくり返っているのが見える。事故で川に落ちたようだ。事故の発生時刻を尋ねると、5時頃だという。もう3時間も前だが、車の乗員が全員見つかっていないようで、捜索中らしい。 最近、身の回りに事故が多い。この旅の出発の2日前には、バスの先頭座席に乗っていて、追突事故に遭い、相手のピックアップの荷台に乗っていた人が死亡した。バス側の人は怪我人もでなかったが、こんな事故に遭遇したのは初めてだし、今回の事故も、自分にはほとんど関係ないとは言え、捜索中の事故に出くわした経験はない。 とにかく、気を引き締めてどんどん先を急ぐ。かなり下流に行ったところにも、捜索している人の車があった。3時間も前となるとこの辺まで流されている可能性もあるだろう。日没時間になり、暗くなってきた。街灯は皆無ではないが、少ないので、バッテリー・ライトを頭に付けて走る。ダイナモもあるが、少しでも抵抗を減らして走るためだ。 バス停が目に入った。YHより一つ前のバス停である。ここからバスでYHに戻ろうかという考えが、一瞬頭をよぎったが、どうせバスに乗っても、9時には間に合わないので、だったら予定通り走ろうと、よぎった考えを吹き飛ばして先を急ぐ。 いくら走っても、マーセド川から離れ、登りが始まる地点にまだ到着しない。あまりにも時間がかかり、行き交う車も皆無になったので、もしかしたら、行き過ぎてしまったのかと心配になるが、その先はマーセド川沿いの道は無いはずなので、そんなはずはないと、自分に言い聞かせていると、やっと登りの始まる地点、ブライスバーグに到着した。なんと時刻は9時を過ぎている。ついに豪華な夕食は食べられなかったかとガックリして、登り始める。 |
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ブライスバーグからYHまでの登りは、事前に確認したところに寄ると、600mぐらいありそうだ。普通のペースで有れば、2時間ぐらいかかってしまう登りなので、ため息を付く。それでも、まあ今日中には着くだろうと、腕時計に着いた高度計の数字を睨みながら、ひたすら登る。 途中、200mほど高度を稼いだところで、1/3は登ったかなと、一度だけ小休止をした後、再び走り始めると、前方に明かりが見える。YHのバス停はまだまだ先のはずだ。途中に明かりがあるような店などがあっただろうかと、首を傾げながら近寄って行くと、なんとそのYHのバス停の明かりだった。地図上でYHがある地点を勘違いしていて、YHは実際にはもっと低いところにあったのだ。登り切ったことにほっとして、自転車を押してYHへの砂利道の登りを行く。 |
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| Yosemite Bug Hostelのレストラン |
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YHに到着して、すぐにレストランに行く。もちろん、とっくに9時を過ぎているので、豪華な夕食はないが、カップ・ヌードルと、ポテトチップスを買って、夕食にする。もちろん、走った後のビールは最高のご馳走だ。今日は110kmも走ったし、最後の登りで美味しいビールを飲む準備は出来ている。ビールをおかわりして、一人で充実したヨセミテの走りを祝って乾杯する。 |