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朝食を取るのは全員で4人。広い食堂の中で使っているのは4人掛けのテーブル一つだけ。食堂の窓は北側の広場に向かって開いている。広場に入ってくる観光バスに強い日差しが反射して、食堂に飛び込んでくる。とても良い天気だ。 YHを出て、ストウ・オン・ザ・ウォルドの町を散策する。まだ朝早いためか、アンティークの店はあまり開いておらず、観光客も少ないが、ウインドウ越しに古地図の店などを見て回る。 先ほどは青い空が見えていたのに、突然曇って、小雨が降ってくる。30分経つと、またいい天気。イングランドでは当たり前の天候だ。 10時になり、YHの並びのツーリストインフォメーションが開いた。情報が豊富で、地図などもたくさん売っている。バースのインフォメーションで手に入れたコッツウォルズの地図と同じシリーズで、コッツウォルズのサイクリング専用の地図があった。ベースは同じで、おすすめのコースが書き込まれているので、コースを考える際の参考になりそうだ。 ストウ・オン・ザ・ウォルドの建造物ガイドはたったの 25ペンス。この町は古くて特徴のある建物や旧跡が多いので、このガイドを片手に町中を散策するのも一興ということで購入。 広場の周辺の建造物を確認した後、徒歩で教会の敷地の中に入る。突然雲行きが怪しくなり、今度は土砂降りの雨だ。ガイドにあるとおり、両脇を大きな木によって占領されたような建物の入り口があった。木が成長する過程でこうなったのだろう。 |
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| 町の中心部にあるStow on the Wold YH |
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雨が小降りになったので、広場の一角にある旧跡を見学する。板が2枚重なっていて、2枚の板の間には、人間の首がと両手が挟まるように穴が開いている。囚人をつなぎ止め、見せしめにするためにでも使ったのだろうか。などと考えながら、雨が上がったので、ストウ・オン・ザ・ウォルドを出発。 |
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次の目標は、チッピング・カムデンという町だ。交通量の多い道をさけたルートをとり、モートン・イン・マーシュという町を通過する。この町は、鉄道の駅があるためか、比較的大きな町で、メインストリート沿いに建物が多い。 モートン・イン・マーシュの町の中心部で小休止。地図を広げてコースを確認し、出発。鉄道の線路を越える手前で、メインルートから左に折れ、田舎道に入る。 この道沿いには大きな牧場や、広大な敷地を持つお屋敷が点在し、自動車もたまにしか通らず、とても走りやすい。整然と植えられた大きな並木の脇道が横切ったりしているので、思わず吸い込まれてしまう。ここからの道はあちこちでこまめに曲がるため、地図を確認する回数が増える。 |
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| Chipping Campdenのマーケットホール |
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道は小さなアップダウンを繰り返し、小さな集落をいくつか通過し、チッピング・カムデンに到着した。町のメインストリートに入る手前に、おとぎ話に出てくるような、厚みのある見事な茅葺き屋根の家が点在する。庭木も手入れが行き届き、見ているだけで心がなごむ風景だ。 チッピング・カムデンの町は、メインストリート沿いの古い町並みと、マーケットホールが有名で、観光客もそこそこ多く、学校の遠足か、子供達も団体で訪れている。町の裏側の通りを含めて自転車で走り回った後、パブでランチを食べる。 チッピング・カムデンの町を出ると、きつい登りが始まった。といっても、例によって短い登りで、すぐにピークに到着。丘の上に出たらしく、コッツウォルズの丘の景色を展望できる。 ここからは、下りと思いきや、ほとんど同じ高さを走り、ブロードウェイ・タワーと言う砦のような建物のある丘を目指す。 |
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周囲には牧場しかない一本道を登って行くと、ブロードウェイ・タワーが見えてきた。中世の砦を思わせる石造りの塔である。ブロードウェイ・タワーの敷地の入り口には、車が何台も止まっていて、10人ほどの人が降りてくる。入り口の脇に小さな小屋があり、料金が書いてあるが、タワーに登らないのであれば、無料で見学できるらしい。羊など家畜が逃げ出さないようにしっかりできている門を開けて敷地に入る。 牧場の中の小道を歩いて行くと、このブロードウェイ・タワーはなんの前触れもなく、いきなり牧草地に建っている。中心の太い円柱の両側に少し細い円柱がくっついている構造で、石造りとは思えない素晴らしい曲線が描かれている。他の角度から見ても同じように見えるので、両脇の円柱は実は3本あり、上から見ると正三角形の頂点に位置しているようだ。 このブロードウェイ・タワーが建っている丘は、コッツウォルズの丘の切れ目で、北側への展望がすこぶるいい。そのためか、むちゃくちゃきつい風が吹いている。ぼーっとしていると吹き飛ばされそうにきついので、ブロードウェイ・タワーの陰に入り風をしのぐ。 建物の中にはお土産やさんがあり、ここでもお金を払うとタワーに登れるようだ。私は、この建物の外観の美しさに魅了されてしまったため、登らずに外から眺めるだけにする。 来た道をそのまま戻り、来るとき横切った交通量の多い道を北へ向かう。ブロードウェイ・タワーから見た通り、北側へは相当な下りになる。イングランドでは珍しく大きくカーブを描いた坂道をダイナミックに下る。 |
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下りきったところにある町が、ブロードウェイの町である。この町も、メインストリート沿いに長く古い町並みが続く。 町の中心部の広場で小休止をして、走り出す。町を抜けてすぐに直角に左に入る。この道は、コッツウォルズの丘の外周に沿うように走っている道で、パターソンが描いたバックランドとスタントンという集落が、道から少し入った所にある。 |
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バックランドの集落の入り口で、直角にコッツウォルズの丘を登る方向に曲がり、道を少しづつのぼって行くと、すぐに集落の奥に到着。パターソンの絵にある砦のような形の教会を見つけるべくどんどん先に進むと、コッツウォルズの丘への本格的な登りに入る手前でやっと教会を発見。 パターソンはきっとこの石にでも腰掛けて描いたのだろう。と思える場所に立つと、植木が教会の建物を隠していて見えず。時の流れを感じさせる。絵に描かれた2本の木は枯れてしまっていて、絵の下に見える低い柵は今はなく、生け垣になっていました。私が国道から登ってきた道も絵の中にないので、別の道が他の集落と結んでいたのだろう。 絵となるべく同じ構図で写真を撮り出発。来た道を戻り、数km離れた隣の集落であるスタントンを目指し走り始める。 |
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スタントンの入り口からはきつい登りとなり、300mほどで集落に到着。パターソンの絵には、石作りの比較的高い建物に挟まれた道に2台の自転車が描かれている。集落の一番奥まで走るが、目標の建物は見あたらず。 集落の奥に向かう道を諦め、集落の中心部に戻り、違うもう一方の道に入った所にその建物を発見。軽トトラックの荷台を拝借してカメラを止めてセルフタイマーで絵の中の自転車の人に成りきって写真を撮る。 スタントンからはコッツゥオルズの外周を通る道に戻らなくても、ほぼ平行にたどる裏道があるので、それを行くことにする。有名な建物なのだろうか、途中スタンウェイという集落に立派なお屋敷の前を通り、再びコッツゥオルズの外周の道に出た。 |
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ウインチクームの町は緩やかな坂の途中にあり。今まで見てきた町比べると比較的に賑やかな商店街が続く。郊外に有名なお城があるようだが、今日の宿泊予定地であるクリーブ・ヒルYHに向かうためこれからクリーブ・ヒルという丘を越えなければならないので、パス。 いよいよクリーブ・ヒルの登りにかかる。今回のサイクリングでは最後のまとまった登りであるので、気を引き締めて登る。例によって、登りに使う体力の配分をするため、地図でピークの位置を確かめ、ペースを考えながら登る。 いきなり道が開け、直角に交差する脇道が現れたかと思うと、下りになった。予想より早くピークに達したようだ。地図を確認すると、明らかな地図の読み間違いであった。 |
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下り始めるとすぐにある展望台でクリーブ・ヒルからの眺めをしばし堪能。少し下るとYHの入り口の看板を発見。地図上で横切る等高線の数でも想像できるように、かなりの角度の下りで、あやうくYHの看板を見落とすところだった。 |
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YHの看板の指示の通り脇道にはいると、すごい角度の登り階段が続いている。YHは車道から斜面を登ったところにあるので、歩行者用の階段が設置されているのだ。 階段の登り口に自転車を置き、荷物だけ持って階段を登りYHの建物に向かう。人気のない受け付けで呼び鈴を押すと、気さくな管理人が出てきた。会員証を提示し、今日泊まりたい旨と、夕食を頼むと、夕食は提供しないYHであるとのこと。丁寧に、食事のとれる近くのパブを紹介してくれた。 自転車を持ち上げて階段を登り、自転車用の納屋に自転車を入れると、どこかのYHで見かけた自転車があった。きっと同じ様なコースをたどっているサイクリストがいるに違いない。部屋で会って情報交換をするのが楽しみだ。 寝室は広く、他にも、ビリヤード台のある広いラウンジ兼食堂や卓球専用の部屋などがあり、かなり広い建物のようであるが、明らかに古く、昔のゴルフ場のクラブハウスの建物を使っているというのもうなずける話である。 荷物を置き、一服した後、夕日を見るため、建物の裏の丘に登る。ここは牧場になっていて、羊がぽつぽつと草を食べている。その羊をなるべく刺激しないように登って行くと、素晴らしい夕日が、遥か彼方に沈んで行くのが見えた。旅の締めくくりとしてはなかなか感動的な風景である。 |
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良く見ると牧場の中には農道があり、ちゃんと車が入ることができるようになっている。さすがにあの歩行者用階段だけではYHの運営はできるわけ無い。先ほど聞いたパブに夕食を食べに行くため、愛車を引っぱり出し農道をとぼとぼ走って行くと、牧場のゲートがあり、車道と合流した。 車道を先ほど下ってきたのと反対に登って行くと、100m 程で目的のハイローストというパブに到着。すでに日が暮れているので、駐車場の明かりを頼りに自転車に鍵をかけて駐輪する。 建物に入ると客は誰もおらず、カウンターでメニューを眺めてしばし店の人の出てくるのを待つ。とりあえず、ビールとミックスグリルを頼み、お金を払い、先にビールを持って窓際の席に着く。 明日は、チェルトナムの町に下り、列車に乗ってロンドンに戻るだけなので、今日はツーリングの最終日である。窓から丘の下の町の夜景を見ながら一人寂しく乾杯をする。やはり汗をかいた後のビールはうまい。カウンターに行き、もう一杯買ってきて、ゴクリ。 相変わらず大盛りのチップス(フライドポテト)の乗ったミックスグリルをたいらげ、いい気持ちなり、「バアーイ」と言いながら、店を出る。この時間になると、地元の人が5,6 人集まってきて、小規模ながらこれぞパブという社交場になっていた。 |
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YH戻ると、ラウンジに一人若者がいた。酔っぱらっていい気持ちになっていた私は、気軽に声をかけると、彼はにこっと笑った。あまり口数の多くない、まじめな感じの青年で、年齢25歳とのこと。コッツウォルズからそれほど離れていないスウィンドンに住んでいて、郵便局で働いているとのことだった。 2日ほど休暇を取って、自転車で走っているとのこと。今日は、途中列車にも乗って、あちこちめぐりながらここまで来たとのことだ。私とは、きっとダンティスボーネ・アボッツYHで同泊だったのではないかという話だった。 ビリヤード台があるので、これは使ってもいいのかと聞くと、彼は自らキュー取り、玉を並べ始めた。私はルールをよく覚えていないので、彼にルールを確認しながらナイン・ボールをプレイした。 ラウンジにおいてあるCTC(英国のサイクリング協会で Cycle Tourist Clubの略)の立派な機関誌を見ながら、彼とイングランドのサイクリング事情に付いて話し合う。できれば CTCのオフィスにも立ち寄って行きたいが、ロンドンの郊外にあり、あまり行きやすい所ではないとのこと。特別目的があるわけではないのであきらめるとする。 |