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朝食は沢山の泊まり客で廊下に行列ができていた。やっとトレーを手にして、カフェテリアのように食事が並んだカウンターまで列が進んだ。日本語でちょっとした解説がある。ベーコン,目玉焼き,ソーセージ,ボイルド・トマトなどから、数種類を選び、飲み物も2種類の内から選ぶなどと書いてある。これぞ、イングリッシュ・ブレックファストだ。 一人で静かに食べていると、日本人の若者が同じテーブルに付いた。情報を得るべく、つかさず話し掛けると、彼はこれからヨーロッパを旅するとのこと。昔、親の仕事の関係で、小さい頃ロンドンのこの付近に住んでいたので、再訪したとのこと。この辺は、日本人が多く住む閑静な住宅地らしい。 朝食後、荷物をまとめ、自転車を納屋から取り出し、いよいよイングランドサイクリングの始まりだ。YHの前で記念撮影をして、腕に力を入れ走り始めると、ハンドルがガクッと前に倒れた。昨日、組み立てた際にしっかり止めていなかったようだ。 これから、ロンドンの中心部にあるユーストン駅まで走り、列車に自転車を乗せ、インターシティー(特急列車)で湖水地方に向かうのだ。ロンドンの郊外は地図を持っていないが感でなんとかなるだろう。地下鉄に沿って、目星をつけていた方向に行けば中心部に出られるだろうという算段だ。ハムステッドヒースというのは丘のようで、意外とアップダウンがきつい。 通勤時間のためか交通量はイメージしていたより多く、道の状態が悪く走りにくい。それでもモールトンのサスペンションに助けられているようで、かなりの荷物を持っているにも関わらずトラブルもなく、どんどんロンドンの中心部に近づいている。と、思うのは甘かったようだ。通りかかった地下鉄の駅の名を手持ちの地下鉄路線図と照らし合わせてみると、放射状に伸びている地下鉄の隣の路線の駅であった。どうもロンドンの中心部へ向かってはいないようだ。 |
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途中、白バイの警察官に道を訪ね、半分ぐらいの言葉と、方角を示す手つきを頼りになんとかロンドンの中心部に到着。この辺からは市街地図があるので何とかなるだろう。 程なく、ユーストン駅に到着。おそるおそる自転車を押して中に入る。日本ではこんなことは許されないはずだが、列車にそのまま積み込めるのだから、駅構内もOKなはずだ。こういう場合は、堂々と行動するにかぎる。 広い駅構内をうろうろした後、チケット売り場に向かう。部屋の外に自転車を立てかけて中に入ろうとすると、駅員に声をかけられた。怒られたのかと一瞬ドキッとしたが、良く話を聞くと、盗まれる可能性があるので部屋の中に持って入りなさいと言っているようだ。うーむ話には聴いていたが、ヨーロッパにおける自転車の扱いには感心するばかりである。 |
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チケット売り場で、日本で入手して有ったブリッド・レイスパスの4日間乗り放題のチケットに今日使用するという意味の日付印を押してもらう。午後のインターシティー(英国鉄道の特急列車)にはまだ時間があるので、ロンドンの繁華街オックスフォード・サーカスの近くにあるスカンジナビア航空の事務所に向かう。直接帰りの便のリコンファーム(搭乗再確認) を行うが目的だ。 オックスフォード・サーカスから、ピカデリー・サーカスにかけては特に賑やかなところで、買い物の人で賑わっている。信号で止まると、買い物袋を下げた日本人観光客が多く目に入る。 交通量の多い道を走る自転車を何台か見かけたが、塗装作業や、木工作業をするときに使うような白い防塵マスクを口に付けている。確かに、ロンドンは自動車の排気ガスがすごい。台数は東京に比べれば少ないとは思うが、法律的な規制が違うのか、自転車乗りには悪い環境である。 システム手帳の老舗、ファイロファックスのお店が近いので、立ち寄った後に、スカンジナビア航空のオフィスに到着。リコンファームの手続きは順調に終了。ユーストン駅に引き返す。 |
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来た道を戻り、ユーストン駅に到着。駅の回りで写真など撮っていたら、目的の列車が入線しているので、自転車を押して、ホームに入る。ホームに入ってすぐの車両が荷物車のようで、「こっちだよ」と車掌さんと思しき人が私の自転車を見て声をかけてくれた。自転車を荷物車に担ぎ上げる。列車内の壁に自転車を立てかけ、オクスンホルム駅で降りることを告げる。自転車に鍵を掛けようとすると、俺が見ているから大丈夫だよというようなことを言っているので、そのままにして、リアバッグだけを外して、客車に持ち込む。 リアバッグにショルダーベルトを付けて、肩に掛けると何と重たいことか。自転車に乗っているときに比べ、直接荷物の重みがかかり、腰の具合が心配だ。2等車両の予約を示す紙の張っていない席を探して落ち着く。 私の席は、2人掛けだが、インターシティーの2/3が、4 人掛けの席で、向かい合わせの間には大きなテーブルがある。家族連れが、お弁当を広げ、ワインやビールを飲んで賑やかにやっていたり、ビジネスマンが、パソコンや資料を広げて仕事をしている。日本の鉄道事情を考えるととてもうらやましい。 通路を行き交う人を見ていると、紙袋に入った軽食や、飲み物を持っている。軽食が買えるような売店があるようだ。それではと、昼食にホットドックとコーラを買いに行く。 湖水地方の地図を見たり、ガイドブックを見たりして、今日の予定をじっくり考えたりしている内に随分時間が経った。もうすぐ湖水地方の玄関口であるオクスンホルム駅に到着する頃かと思っていたが、まったく到着する気配が無く、列車は延々と単調な緑の丘の景色の中を走るだけである。どうやら、1時間到着時間を間違えていたようだ。 |
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うとうとしている内に、オクスンホルムの1つ手前の駅に到着。まだまだ余裕はあるが、念のため荷物車に移動して、自転車を列車から降ろす準備をする。停車時間はそれ程長くないだろうから、自転車を降ろし損ねたら大変なことになる。 列車はオクスンホルム駅に到着し、愛車と私は無事に下車できた。ホームで列車を見送り、駅の外に出る。駅の外に出るためには階段などがあるのではないかと思っていたら、特にそういうことももなく駅前に出た。この駅は、湖水地方に向かう湖水線との乗換駅であり、ケンダルの町からも遠く、地元の人の利用もほとんど無さそうで、駅前にはなにもなかった。 列車が着いて、まだ10分しか時間が経っていないが、もう出発準備は整った。日本のように、輪行をしていたら、こうは行かない。オクスンホルム駅は少々高い所にあり、駅前から、ケンダルの町に向かって下ることになる。 |
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田舎道を快調に走り、やがて住宅地にさしかかると、学校帰りの子供達をたくさん見掛けるようになった。こんな田舎の学校の生徒でも制服はブレザーというところがイギリスらしい。 ケンダルの町は思ったより大きく、メインストリートは車も多く、石づくりの建物の商店がたくさんあり買物客の姿も多い。正確には国立公園としての湖水地方の外側の町であるが、なにか観光ポイントでもあるのか、観光客の姿も多い。私はこの町には寄らず、先を急ぐ。 ケンダルの町を抜け、郊外の坂を上り、幹線道路との合流地点まで来た。周囲は野原で、何も無く見通しはいいのだが、合流点の道の様子が良くわからない。どうもこれが話に聞くところのロータリーのようだが、あまりに大きくて、全貌がわからない。これから向かう湖水地方は右方向であるが、他の車に習い、左に進み、ぐるっと回って合流する。 |
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| | Windermereのツーリストインフォメーション |
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幹線道路を少し行くと、湖水地方の看板が有った。うれしくなって、記念撮影をして、先を急ぐ。途中まではそれ程きつい登りということもなく、徐々に標高を上げている。最後の登りをクリアすると少し見晴らしの良い丘に出た。ウインダミア湖の湖岸にあるウインダミアの町へ下るだけだ。 下り始めて程なく、ウインダミアの町の入り口の分岐点に差し掛かった。ちょうどツーリストインフォメーションが有ったので、小休止も兼ねて、立ち寄ることにする。 湖水地方及びウインダミアは英国では指折りの観光地であるだけに、ツーリストインフォメーションの中は充実していた。山歩きのガイドだけで棚1つ、サイクリングのガイドだけで棚1つある。英国ではいかにサイクリングがメジャーかを実感する。サイクリングルートを紹介するガイドブックが、地図や写真が豊富で見た目にも美しかったので購入することにする。他にも地形図をそのままはがきに印刷した物などを記念に購入する。 ツーリストインフォメーションの建物の前にはアンブルサイドYHのマイクロバスが止まっていたので、運転席の人に今晩泊まることを告げ、どのくらいの距離があるか訪ねる。これから向かうので、乗せてってあげようかと言うので、自転車であることを告げると、自転車は屋根に乗せられるよと言う。ここからYHまでは近いし、これから登りらしい登りも無さそうなので、丁寧に断る。 ウインダミアは日本人が多く訪れるらしいが、鉄道の終点で、湖の対岸にある、ピーターラビットの作者であるビアトリクス・ポターの家を訪れるためのようだ。町自体にはこれといって見所はなさそうなので、町の中心部には向かわず、今日宿泊する予定のウインダミア湖の北端に位置するアンブルサイドYHに向かう。 |
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道は若干のアップダウンの後、徐々に湖に近づくにつれ下りになり、ついには湖岸に出た。すぐに三角のyhaのマークが目に飛び込む。YHを見逃さないように注意して走っていたが、これでは見落としようが無い。 YHの敷地に入ると、湖沿いに建つ建物が目に入った。とても立派な建物である。目の前はウインダミア湖という立地条件も最高だし、たたずまいはまるでホテルのようだ。宿泊手続きをして、部屋に荷物を運び入れると、部屋からの眺めも抜群である。これでドミトリーでなければ、そのままホテルである。 1Fのラウンジも広く、ソファーなどの設備も充実している。 湖が見える食堂での夕食後、湖岸を散歩し、老齢なご婦人と会話などして、時間を過ごした後、日本人の宿泊者である藤井さんという人とラウンジで話をする。彼は留学のためロンドンに滞在している娘さんと車で観光しているとのこと。湖水地方の情報に詳しい英国人のロイさんを交えて情報交換をする。 ロイさんは地元だけあり、毎年のように湖水地方に歩きに来ているそうだ。私が行きたいところについて詳しくアドバイスしてくれるが、英語が半分も解らないので、深く聞くことができない。私が胸に付けている愛車アレックス・モールトンのバッチを見て、話題になった。高価で技術的評価の高い自転車だということを知っているようだった。今回の旅の目的の一つが、毎年世界中からこの自転車のファンがB-O-Aに集まるアレックス・モールトンのイベント参加であることを告げる。 |