徐々に標高があがり、気温も下がって来たようだ。YHのあるブラックセイルに近づいてきて、自然とペースが上がる。体が暖まって来て上半身から湯気が出ているような感じである。
森が開け見晴らしがよくなったところで、橋を渡り、迂回路から予定していた道に戻る。ブラックセイルYHが見えて来たが、それらしい道が無いので、来た道を少し戻って、橋を渡り、川の反対側からYHをめざすが、川の向こうにYHが見えるところで、むなしくも道は切れていた。道をまた戻り、橋を渡って進むと、ウオーカーの人が、YHに向かって歩いているのが見えた。ここからは車が通ることのできないフットパスを行かなければならないようで、羊が逃げないように閉まっている門を開けて通過する。
自転車を少し押して行くと、程なく羊飼いの小屋を改造して作ったというブラックセイルYHに到着した。写真と話に聞く通りの石造りの建物で、周囲は大自然にかこまれ、素晴らしいロケーションである。YHはまだ開く時間ではないようで、数人のウオーカーがベンチに腰掛け、YHが開くのを待っている。
YHのドアがオープンして、管理人が我々を中にいれてくれた。そして、山小屋の部屋のようなラウンジで紅茶のサービス。ウオーカーの人達は、靴を脱いで、くつろいでいる。そうこうしているうちに、日はどっぷりと暮れ、灯がともされた。電気はもちろん来ていないので、とても柔らかい明かりを発するガスランプが我々を包みこんだ。
夕食では、まな板に乗って出て来たパンをナイフで必要なだけ切って食べる。メインディシュの西洋ネギのパイはとてもボリュームがありおいしかった。山の中なので、豪華さには欠けるが、しっかり甘いカスタードクリームのかかったデザートも出た。イングランドで一番印象に残ったディナーだった。
夕食後は、みな思い思いに本を読んだり、勉強をしていたりする。私は、アウトドアの雑誌を見たり、何人かの人とYH の会員証を見せあい、宿泊したYHの話などして過ごす。日本の YHのスタンプは珍しがられた。管理人に日本人はこのYHに来るかと聞くと、日本人どころか、英国人以外はほとんど来ないとのことだった。庭に出て空を見上げると、雲が切れている所があり、降るような数の星が見えた。
このYHは日本のカントリーウオーカーの山浦正昭さんが著書の中で紹介していて、素晴らしいYHだとのことで期待していたが、その通り、素晴らしいYHであった。