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昨日登ってきた急坂を下り、昨日ジョンさんと偶然出会った交差点まで来た。ジョンさんの店に行くため、迷わず彼が走って来た方向にハンドルを向ける。鉄道沿いの道を走れば駅に着くだろうと思って走っていたら、行き過ぎてしまった。少し戻って、バース駅に着くがそれらしい店は見あたらない。駅のホーム下のガードをくぐると、駅の裏側にジョンさんの店の入り口があった。 |
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ジョンさんに挨拶すると店員のリチャード・グリズビーという人を紹介してくれた。彼は親切に店の内側まで案内してくれて、モールトン以外にもリカンベントや小径の店のオリジナルである小径のロードなど、変わった自転車を見せてくれた。それから彼は自転車雑誌の記事のスクラップなどを見せてくれた。様々な自転車に乗っている彼の姿の写真が沢山掲載されていた。 帰国して現在のモールトンについてトニー・ハドランド氏の書いた通称「赤本」を見るとリチャードさんのことが8ページにも渡って写真入りで紹介されていた。彼はバース・サイクリング・クラブで活躍する有名な自転車レーサーでモールトン愛好家でもあるらしい。こういったモールトニアの人と会うことができたのも、すごい偶然だったと後になって思った。 店の前でみんなで記念撮影をし、別れを告げ、私はバースのインフォメーションに向かった。 |
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バースの繁華街の中心にあるインフォメーションでトラベラーズチェックの現金化と情報収集、土産の地図の購入などを行う。さすがに大観光地のインフォメーションだけ有って、大きく、設備が充実している。 外に出ると昨晩泊まったYHの受け付けで見かけた女の子がいた。昨晩はいっしょにいた男性がサイクリング用のバッグを持っていたので、不思議に思っていたが、話を聞くと彼女はサイクリストでソロで走っているとのことだった。 |
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インフォメーションのすぐ近くにある、お決まりの観光ポイント、ロマン・バス博物館を見学することにする。5ポンドとかなり高いが、内容はそれに見合う物だった。発掘されたローマ時代の温泉施設を整備し、様々な資料とともに展示した物で、建物の中央部にあるプールのような温泉と、それを取り巻く多数の大小の温泉の浴槽には驚かされる。まったく現代のクアハウスを想像させる様相である。 一通り見終り、外に出る。建物の外では例によって日本人観光客の団体が列を作って入り口につめかけていた。その光景を横目で見ながら、自転車と共にロマン・バス博物館を後にする。 |
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これから走るコッツウォルズの地図を調達するため、書店を探す。すぐに、W.H.スミスという大型書店を発見。エスカレーターで2階に上がると、コッツウォルズの官製地図を見つけることができた。グラスミアのYHで会った日本人に見せてもらった地図である。 |
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しっかりした地図を手に入れたので、心置きなくコッツウォルズを目指して走り始めることができる。しかし、この地図には、バースからカッスルクームにかかる部分は含まれておらず、もう少し荒い地図を我慢して使わなければならない。 一昨日、BOAに向かう際に使用したA4線をロンドン方面に少し走り、5kmほど走った所で左に折れて北上する。まもなくコッツウォルズの丘への登りが始まった。話に聞いている通り、丘への登りはとてもきつく、周囲の景色がどんどん開けてくるのを実感できる。しかし、一度登りきってしまえば、谷筋へ降りない限りそれ程大きなアップダウンはないようだ。 方向は合っているという自信がはあるものの、荒い地図をたよりに走っているので、距離的にどこまで来たのか自信がなくなり、ついには地図上の位置を見失った。ちょうど通りかかった地元のおばさんにカッスルクームの場所を訊ねると、直進で間違いなしとのこと。再び走り始めると、いくつかのアップダウンを経てやっとカッスル・クームの手前に横切る車道が現れ、地図上の位置が確認できた。 静かな田舎町を走っていると何やら音がする。ペダリングを止めても音はやまないので、BBやチェーンの問題ではなさそうだ。なにかホイールに当たっているのかと思い後輪を見るため振り返ると不思議と音が止む。どうやら加重のかかり方で異音が発生するらしい。 |
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| Castle Combeのパブのランチは美味しかった |
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到着したカッスル・クームは小さな集落だが、とても落ちついていて、素晴らしい村だ。村のメインストリートと鈍角に交差する川には、清らかな水が流れ、水鳥が遊んでいる。自転車のスピードではもったいない気がして、自転車を押してメインストリートをとぼとぼ歩く。沿道には目立たない看板を出しているアンティークショップなどがあり、覗き込んだりしながら歩いていると、すぐに村の中心部まで着た。ちょっと小雨が降っているが、それを打ち消すような見事な家並みである。 あまりにも小さな集落なので、その辺の脇道すべてを覗いてみる。珍しく高級そうな車が入って行く道があり、いったいどこに向かっているのかと、とぼとぼ走ってゆくと、私道のようになり、やがて大きな庭に出た。その奥には、格調高い建物がある。どうやらマナーハウスと呼ばれる歴史のある一種のホテルのようだ。この村は小さく、質素に見えるが、とても格調高い歴史を持った村なのだ。ローマは1日にして成らずではないが、長い歴史と、それを支えてきた英国人の気質を感じる。日本であれば、単なる過疎の村になるか、けばけばしいタレントショップや土産や乱立するうるさい観光地のどちらかの道をたどるのだろう。 村の中心部にある屋根のついた石舞台のようなところで、自転車を止めて異音の原因を調査する。後輪を確認してみてびっくり。スポークがかなり緩んでいる。あわててニップル回しを取り出し、自転車を上下逆さまにして、本格的に調整する。これだけの大荷物をリアキャリアに積んで、ダートもある湖水地方を1週間走ったのだから、無理もない。それよりも、最大の原因は、購入してから一度もスポークを締めていないことだろう。 遅い昼食を取るため、周囲にあるパブの入り口に掲げられているランチメニューをのぞき込む。えいやっと、そのうちの1軒に飛び込んで、おばちゃんに今日のランチを注文する。パブだから当然だが、店内は暗く、カウンターには昼間から飲んだくれてブツブツ言っているいるおじさんがいる。ちょっと不安であったが、出てきたランチはとてもボリュームがあり、おいしかった。隣からは、日本人女性の2人組の声が聞こえる。ランチはパブで食べるのがいいと聞いていたが、本当だった。 ここカッスル・クームを出発するのが名残惜しく、川べりまで戻って、家並みを再び眺める。天候のせいか、あまり観光客は多くないが、たまに見かけるのは日本人が多い。再び村の中心部を通り、今度こそカッスル・クームを後にする。集落を出たところに、見事な厚みの茅葺き屋根の民家が現れた。まるで童話に出てくるような家だ。 |
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かろうじて雨は降っていないが、今にも泣き出しそうな曇り空の中、丘の中の殺風景な道をひたすら走る。そうこうしているうちに、郊外に王家の別荘があるというテットベリーの町に到着。そこそこの大きさの町である。天候のせいもあるのか、暗い町のイメージ。がらんとしているマーケットホールのそばにある郵便局で切手を購入し、先を急ぐ。 町を出るとすぐにまた田舎の風景が戻ってきた。殺風景な農場や、森が繰り返し現れる。途中の信号もない小さな交差点の角に山羊を飼っている一角があり、休憩がてらに写真など撮る。人なつっこい山羊で、金網の向こう側で逃げるどころか寄ってくるので、セルフタイマーで自分自身もいれて撮影する。撮影が終わったところで、数件しかない建物の一つからおばちゃんが出てきてシャッターを押してあげるよと言う。田舎は親切な人が多いなと感心しつつお礼を言って、丁寧に断った。 |
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| Duntisbourne Abbots YHの夕食風景 |
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これまた小さなダンテイスボーネ・アボッツの集落に着くと、すぐにYHの看板があり、迷うことなくYHに到着できた。受け付けの女性に言葉の面で迷惑をかけ、やっとチェックイン。こんな田舎町のYHなのに、今日はどこかのカレッジの団体がどっと押し寄せていてとても賑やかだ。 入り口付近でうろうろしていると、地味な小柄のおじさんサイクリストが到着。自転車置き場となっている小屋を教えてあげる。小屋にはもう一台の自転車があるので、もう一人サイクリストがいるようだ。 夕食は、ハンバーグやフランクフルトを勝手にパンに挟んで食べる形式。サラダなども中央のテーブルで自由に取るようになっている。お米が原料のなんだかわからない料理も並んでいて、期待して食べたが、味はNG。一見ピラフのようだが、暖かくない。ライスサラダという物があれば、そうなのかもしれないという変な料理だった。20人ほどの学生たちはとても賑やかで、一緒のテーブルだった連中は、自分で取ってきた食べ物も食べきらず、食後の甘ったるいデザートに大騒ぎして群がっていた。 |