フィールドに着いたようでバスは止まった。運転手が振り返 りフィールドという言葉を告げたようなのでおそるおそる荷物を持って席を立った。運転手はトランクからパックした自転車を出し道ばたに置き、バスに乗り込みむとさっさとバスは発車して行ってしまっ た。
想像はしていたが、こんな寂しい町で降りたのはもちろん自 分一人。ガソリンスタンドがあるだけで何も回りにない殺風景なと ころで眠い目をこすりこすり自転車を組み立てる。ふと冷静になると非常に寒い。ここはロッキー山脈も近く標高が高いだけでなく、 大きな山々に囲まれているため、夜は明けているにもかかわらず太陽は見えない。炎天下の道を走る覚悟でいたため、かなりめんくらっ てしまった。
組立てた自転車にまたがり、ニュージーランドを走って以来 久しぶりのサイドバックの荷物の重さに閉口しながらふらふら走る。 トゥクリップに足を入れそこなって上から踏んでしまったり、ペダ ルの裏を踏んだためにクリップが地面にぶつかったりしてついにハ トメのところから折れてしまった。自転車に乗り始めてすぐにトラブルに見舞われてしまい、先が思いやられる。フィールドの町に入っ たところに立つログハウスの入り口で予備のクリップと交換する。
ログハウスの中を覗くと人気がなく、ドアが開いている。あ んまり寒いので、失敬して中に入ると子どもが書いたような絵が張っ てあるだけで、家具など何もなかった。日本で言えば公民館のような集会所なのだろうか。
フィールドの町中をうろうろする。町中と言っても未舗装の道が幾筋かあるだけの小さな集落で、朝早いのでもちろん閉まっている雑貨屋のような店が1軒と、普通の住宅がポツリポツリとある。空き部屋ありの看板を出しているモーテルを見つけたので午後また来ることにする。
来た道を戻り町の出口にさしかかると変な形をしたトラックが鉄道の踏切をふさいでいる。通過することもできず、自転車を止めて眺めていると、その車は線路の上に平行に駐車してしまった。ますます横切ることができなくなったのでどうしようかと思っていると、トラックのタイヤの前後から鉄道用の車輪が出てきて、車体を持ち上げてそのまま線路を走っていってしまった。チャンスを逃さずカメラのシャッターを切ると運転手がこちらを見てニヤっとした。
さっきバスを降りた所にあるガソリンスタンドが営業していて、なにか食料も売っていそうなので入ってみる。電子レンジで温めて戻す冷凍ハンバーガーとm&m'sというタブレット状のチョコレートを買い込む。やっとこれで朝食らしき物にありつけたわけだ。