ピーク付近にある湖の手前で分岐点に到着した。予定のコースでは世界最大のソグネフィヨルド(もちろん標高0m)をフェリーで横切り、いきなり1,000mほどあるかなりきつい峠を越えてこの分岐点に降りてくるはずであった。そちらに行かなくて済むと言う安堵感と、峠付近の展望台ではさぞ素晴らしいフィヨルドの眺であろうと思うと複雑な気持ちだ。
力の入る登りをこなし、ほどなくピーク付近の湖に達した。例によって細長い湖の沿岸には白樺の林の中、別荘がぽつりぽつりとあり、すばらしい環境だ。湖岸を快走し湖をすぎるとあまりピークらしくない平地になった。付近の売店でジュースやヨーグルトを買って小休止をする。
下りはじめると間もなく、シュタルハイムの谷を展望できるホテルへの分かれ道に差しかかった。ちょっと通りすぎたが、気がついてすぐに戻り、また登りがはじまった。20分ほど走ってホテルの正面に到着する。ヴォスで同室の田中氏から聞いていたとおり、ホテルの脇からは大した展望がきかず、やはりホテルの庭に出て展望を楽しむほかないようだ。
ずかずかとロビーを横切りラウンジを出て庭に入る。さすが素晴らしい眺めだ。絶景である。高い山々の中、正面には映画「未知との遭遇」に登場するデビルズタワーのような山が見え、ずっと下にはこれから下って行く谷の道がくっきり見える。
また下りの始まりだ。ホテルの庭から見下ろしたときに、道路が山中に消えて行くように見えたがやはりすぐにトンネルだ。かなりまとまった下りの途中なので、勾配がきつくなっているか、かなり曲がっているかのどちらかだろう。
舗装したばかりか、路面がしっかりしていて、黒い路面から白いラインがくっきり浮出ている。頭につけたライトの明りが蛍光塗料の混じった白いラインを光らせ、それを頼りにハンドルのコントロールをする。前進するのは重力にまかせ、ブレーキでスピードコントロールを行うだけだ。ちょっと油断をしていると速度が増し、ラインを見失ないそうになる。
後方から来る自動車のライトがトンネル全体を映し出し、いかにトンネルが曲がっているかを思い知らされる。前方から来る自動車のライトは、逆の意味で視界全てを完全に無の世界にしてしまい、自然に下っていることも手伝って、太陽に向かって空をとんでいるかのような錯覚を起こさせる。