|
昨日宿のおばさんに無理を言って頼んでおいた朝食を腹に詰め込み、支度を整え、ステファンたちの車を待つ。到着した車のトランクの荷物を後部座席に移動し、前後輪を外した自転車を詰める。革サドルのど真ん中にトランクの縁が当たって2本筋の傷が出来た。一生忘れない思い出の傷である。 途中、換金を行うため、昨日夕食をとったユニオンホテルに立ち寄ってもらった。ホテルでの高い手数料の含んだレートでの換金を終え、ラウンジでセルフサービスのコーヒーを飲み一服する。彼らは一服するとさっさとラウンジを出て行くので、コーヒーの代金は払わなくてもよいのかとステファンに聞くと、本来こういった所のコーヒーは無料のようで全然平気な顔だ。日本の食堂にあるお茶のようなものかと納得する。 |
|
例によって空は薄暗い雲に覆われ小雨が降っている。自動車はつづら折れの道の急勾配を登り、標高1200mのダールスニッパ展望台の入口に着いた。しかし、ゲートが閉まっていて、営業期間は 8月中までとなっていた。昨日の日本人学生が訪れたとき閉まっていたのは、時間が遅かったためでなく、営業期間外だったわけだ。 ここまで登ってくると、小雨はみぞれ状態になり、異常に寒い。車から出て周囲の景色を眺めるが、雪をかぶった近くの山が見えるだけで、ほとんど視界がきかない。ガイランゲルフィヨルドを見下ろすこの展望台は今回の旅のメインの一つであり、天候がよければ最高の景色であったはずだと思うと残念でしかたがない。 |
|
展望台付近のピークからは自転車での走行の予定であったが、この天候と寒さではとても走れる状態ではない。このまま車で山の反対側に下り切った所にあるスティルンという町まで乗せてもらうことにした。標高を下がってくると雲の間に晴れ間が見えてきて、氷河によって作られた細長い湖の一部を照らしている。 車に揺られているうちに、気持ちが悪くなってきた。寒さ,標高差,揺れ,詰め込んだ朝食とコーヒーが重なったためであろう。湖畔で車を止めてもらい少し休憩し、前の席に乗せてもらう。 スティルンの町のガソリンスタンドで自転車を下ろしてもらい、いよいよ彼らとの別れとなった。住所を交換し、お礼を言って別れ、自転車を組み立てる。 小雨の中、走り始める。ここからは小さな観光の町がいくつも連なるコースになる。太古の昔に氷河によって作られた湖やフィヨルド沿いにくねくね曲がった細い道を走る。そこそこの交通量なので、久しぶりに車に気を使って走る。 |
|
馬車でダートを走ることで有名なブリクスダル氷河観光の入口の町であるオルデンに着いた。雨が強くなってきたので、バスターミナルのようなところの売店の軒下で休憩する。早くも観光シーズンを過ぎたノルウェーでは観光施設にある売店はしっかり閉まっている。誰もいない広い駐車場が雨に打たれてキラキラするのを恨めしそうに眺める。 40分ほど経ったところで、雨が上がったので再び走り始める。 |
|
小さな雑貨店で、昼食替わりにヨーグルト等を買って食べる。雨が強くなったり弱くなったりするので、出発のタイミングがつかめない。1時間ほどぼけっとしていると、雨が上がったので、ポンチョをフロントバックの上に乗せて走り始める。どうせまた降ってくるに決っているのだ。 インビックの小さな町の中心部から左に折れ、隣りのフィヨルドとの間の峠に向かう。住宅地を抜けないうちにとてもきつい登りに入る。 このきつい登りも最初だけだろうと思っていたら、なかなか楽にならない。後ろから来た車が脇に止まって声を掛けてきた。ステファンとアネットだ。彼らはブリクスダル氷河を見に行ってきたそうで、登りがきつそうだが大丈夫かと気づかってくれた。 現在地を地図と照らしあわせても、なかなか地図上では進んでおらず、気が滅入る。相変わらずのきつい登りをもがきながら登っていると、また雨が降ってきた。 |
|
かなり登ったところでだんだん前方の景色が開け、カフェテリアが見えてきた。峠に近いようで、ここから先はフラットに近い道が続くのが見える。 カフェテリアでコーヒーを飲んできつい登りと雨のために疲れ切った体を休める。店内からは登ってきた方向に開けるフィヨルドの景色がよく見える。 今までの登りに比べると、ほとんどフラットに感じるほどの緩やかな登りを峠に向かって走る。やっと移動量が地図の上で確認できるようになる。到着した峠の標高はたったの600mだ。登りがはじまったのがフィヨルドの沿岸であるので標高は0mだから、600m登ったことになる。 V字谷の日本の山岳地形とは大きく異なり、U字谷のフィヨルドの地形のきつさが身にしみた。U字谷とU字谷の間の陸地の断面はかまぼこ型をしていて、最初の登りがとてもきつく、ピークの付近はほとんどフラットになっている。日本の峠のように、だんだん登りがきつくなってゆき、峠で角度のピークを迎えるような地形になれているためペース配分がむちゃくちゃになった。 |
|
途中まで緩やかだった下りも、ブリクジェロの谷が見えてくるあたりで角度がきつくなってきた。雄大なU字谷の地形をバックに写真を撮り、ゆっくり下る。 ブリクジェロの町の中心部にあるロータリーを右折しYHを探す。すぐに町はずれになってしまったのでガゾリンスタンドでブリクジェロYHの場所を尋ねると、さっきのロータリーの正面であった。 見るからにYHらしくない形式の建物の一階にあるレストランに恐る恐る入って行く。おばさんにYHに泊まりたいと申し出ると怪訝そうな顔をしながら手続きをしてくれた。自転車で来た変な東洋人がこんな時期に一人で泊めてくれと言うのだから不思議に思われてもしかたがない。近くにこれと言った観光地もない小さな町のYH なので、もしかしたらここに泊まる日本人は自分が初めてかもしれない。 この町ではここしか夕食を取れるところがないようなので、定食のようなものを頼んで一人でさびしく食べる。天候のせいもあるのか本当にさびしい町で人気もあまりなく、窓の外を眺めていてもほとんど人が通らない。 食事を終え、バスの時刻表を借りて部屋に戻る。今日の昼間、峠の登りで見かけたベルゲン行きの長距離バスが気になったので調べてみると、翌朝の8時過ぎにもブリクジェロを経由するベルゲン行きのバスがあることがわかった。雨続きなので大幅に予定を変更し、最終目的地であるベルゲンにバスで移動し、ベルゲン観光の後、天候を見はからってベルゲンから予定とは逆のコースを走ることにする。 |