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朝起きると窓の外が明るい。狐につままれた気分だ。台風はどこに行ってしまったのだろう。テレビの天気予報を見ると台風はまだ福井に到達していないようで、午前中はフェーン現象でとても天気がよいとのことだ。どうも昨日までの雨は台風とは無関係の低気圧だったようだ。 急に元気になり急いで朝食を食べながら乾かしていた荷物をパックする。午後2時頃にちょうど越前岬あたりを通り日本海に抜けるので午前中いっぱいは最低でも走ることができそうだ。越前岬までは40kmはないので台風が来るまでに福井駅に戻れるはずだ。 |
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昨日のどしゃぶりの雨の中の走行のせいで後ろの泥除けに付いている管付きダルマネジの頭の部分が吹っ飛んで無くなっている。輪行時に簡単に泥除けを着脱できるようにしているので振動等により一番外れやすい部分である。しかし今まで10年近くこの方法で走っているが自転車を組み立てる際に必ずしめるためかゆるんでいたことはあっても外れて落ちたのは初めてである。手早く予備の同じネジを装着して事なきを得た。備えあればなんとやらである。 荷物を適当に自転車に装着して福井駅を目指す。どうせ福井駅に戻ってくるので工具や雨具以外の荷物はコインロッカーに預けて身軽に走ろうと言う算段だ。これなら背後から襲ってくる台風にも追いつかれないだろう。 福井の市内を走る市電の軌道に沿って鯖江市を目指す。少し南下して南側から越前岬を回ってくるコースをとることにした。それにしても天気がよい。走り初めて1週間、台風が来る最終日が一番天気がいいとは皮肉である。 |
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鯖江市の入り口付近まで来た。地図に載っていないバイパスがあり、正確にはわからないがココから西に向かって行けば日本海に出る道に近道できそうだ。 アップダウンを繰り返しながら古い町並みのありそうな織田町をバイパスで通過する。旧道との分岐点が目に入ったならば、いつもの習性で旧道に吸い込まれていったはずである。町を抜けたあたりで左から迫ってくる旧道が目に入ってきたので直角に農道に入る。お地蔵さんなどが並ぶ旧道のしっとりとした雰囲気に一瞬ではあるが浸ることができた。 強い日差しの中、予想以上に汗をかきかきアップダウンの続く道を走る。道沿いの旧家の瓦屋根に乗っている小さな屋根が目に入る。他では見かけない構造の家だ。まるで小さな部屋でもあるような立派な作りの瓦屋根の小屋が、しっかりした瓦屋根の上に乗っている。雪国ならではの工夫なのか、あの屋根の下から何か作業でもするのか、それともいろりから出る煙の排出口なのか。 小高いところに立つ立派なお寺の屋根もそうなっている。寺の建物と背景にそびえる緑のすばらしい木々が魅力的で思わず写真を撮りに脇道にハンドルを向けてしまった。 |
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少しまとまった登りに入ったかなと思ったら、すぐにピークが訪れた。ここから海に向かってかなりの下りになる。こんなに登ったのかと驚くほどの下りである。 一気に海沿いにある小さな港町の梅浦の町中に入ったかなと思ったら、すぐに海に出た。海は台風の前の静けさかとても穏やかである。ここから右に折れて越前岬に向かって北上する。 |
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海沿いの国道をひたすら走ってゆくと呼鳥門と呼ばれる天然のトンネルが現れた。いちおう道路の上には落石を防ぐために被道となっているが、それをはるかに大きく跨ぐように岩が覆い被さっている。日本海の荒波により浸食されできた芸術作品だ。 呼鳥門をすぎて地図を見るといつのまにか越前岬を通り過ぎていた。越前岬と言っても何にもないよと言う話しは聞いていたが、なんらかの目印はあるものと思っていた。呼鳥門を再びくぐり、少し戻ると海沿いの直線の道沿いに新しくできた観光ガイドのような建物があった。 よく見ると地図があり、この丘を登って内陸にはいると灯台やなにやら場違いの観光施設があるようだ。とにかくここが今回の旅の最終目的地である北緯36度線に近い越前岬であるらしい。岬と言っても特別海に飛び出している地形ではないが、ここがこの付近では一番西に飛び出しているわけだ。 とにかく何か目印のようなものを求めて自転車を止めて遊歩道を上って行く。少し登っただけで日本海のすばらしく濃い青色の海が視界に入ってきた。そのまま登って行くと期待通りにすばらしい展望が開けた。丘の上にはギリシャの神殿をまねたような形と名前の観光施設があったが、これから台風が直撃するはずの平日にこんなところに来ているのは私一人。なにかすばらしい展望を独り占めしているような気になってきた。 とてもこれから台風が来るとは思えないような好天の中、日本海に吸い込まれるように来るとに登ってきた遊歩道を下る。ちょっと脇道に入りほんの少し行くと南の方向に海を望むことのできる展望台に出た。杭のような形をした碑には「現時点北緯35度58分36秒・東経135度57分44秒」,「越前岬 越前町 町の花・水仙」と刻まれていた。やっと地図上の位置に確信が持てた。こここそ越前岬である。足掛け3年を費やした北緯36度線サイクリングもこれでフィニッシュである。少し感動し、しっかり写真を撮って自転車のところに戻る。台風に追いつかれないように福井駅まで戻らなければならない。 |
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観光施設の点在する日本海沿いの道をひたすら北上する。ほとんどノンストップで走り、福井市方面へ内陸に入って行く道との分岐点である大味という小さな集落に出た。缶ジュースを飲んで小休止しているとサイレンが鳴り防災放送が流れた。やはり台風はこの付近を直撃するようで、港の船などに関する注意である。今のところ天候は悪くなる気配はまったくなく、台風の話しはうその様でさえある。 なんとか台風が来る前に海岸線から内陸に入ることができるので、一安心である。日本海に出たときのような勾配ではないものの、ここから福井市内へは丘陵地を越えるため前半は登りが多くになるようだ。 相変わらずの好天で喉ばかり渇き、ボトルの水もほとんど残っていない。何度もジュースの自動販売機に吸い寄せられ、冷たいものを飲む。最後の最後でバテが来たようだ。目的を達成した脱力感も手伝い、なかなか距離を稼ぐことができない。 |
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何とかピークを過ぎて平野に下って行く。福井市外に近づくにつれ、道がはっきりわからなくなってきた。集中力が衰え、案内看板を見落としたのか、いつのまにか福井市の郊外を抜け、三国町方面へ向かっていることに気が付いた。 何度か地図とにらめっこしたあげく、福井市から東尋坊のある三国町に向かう京福電鉄の軌道を跨いで福井大学のキャンパスをかすめてなんとか福井駅に戻ってきた。コインロッカーから荷物を取り出し、自転車をパックする前に帰路の切符を手配する。なんと京都の方面へ向かう特急列車は台風の影響で全て運休しているとのこと。私はもともと新潟周りで帰宅する予定であったが、これによって特急雷鳥の指定席が取りにくくなっていることは事実のようだ。 いろいろ窓口氏と相談したあげく長岡までの特急雷鳥と長岡から大宮までの新幹線の指定を取った。明日は休みなので夜遅い帰宅になることをいとわずに遅い便にした。 パックした自転車を階段の手すりにロックして、ターミナルビルの2階で土産を購入する。まだまだ時間があるので立ち食いではあるが名物のそばをすすった後に改札へ向かう。改札には台風のために運休している便を示す立て札が立てられ、地元のテレビ局のカメラクルーが撮影の準備をしていた。 自転車を持って改札を抜ける時に手回り品切符をチェックされたので改札内の窓口で購入する。正午過ぎにと言っていた台風がやっとお目見えしたようで、4時になってやっと空が暗くなってきた。特急雷鳥29号は私と愛車を乗せて台風の攻撃を避けるように福井を後にした。 |
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約4時間という長い時間特急列車に乗るのはひさしぶりだ。東北新幹線開業より遥か以前に、家族で仙台に行って以来かもしれない。昔は時間があればあえて鈍行列車を使う一人旅もしたが、仕事であれば新幹線か飛行機というのに慣れてしまったようで中途半端に特急に乗ることは滅多になくなったようだ。 駅弁を平らげるとやることもなく、ひたすら寝るのみである。なんども目を覚まし、まだ長岡にはほど遠いことを確認してまた寝るのであった。 ほとんど乗り換えの時間がないので、自転車を担いで急いで新幹線のホームに急ぐ。乗り換えの人は大勢いて、自転車を担いでの乗り換えは体力と気を使うものであるが無事に新幹線に乗車することができた。 |
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大宮駅に着いた。雷鳥に長い間揺られたので、あっと言う間に大宮駅に着いたという感じ。大宮駅でいつもお世話になっている高崎線に乗り換える。大宮駅での乗り換えは手慣れたものだ。 平日の高崎線の下りはこの時間でも込んでいる。上野始発より比較的すいている池袋始発の列車にほとんど待たずに乗り込むことができた。輪行車を持ってはいたが他の乗客に迷惑にならない程度の混み方だった。 |
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いつものように駅のホーム脇の金網に輪行袋を立てかけて自転車を組立にかかる。 今回のサイクリングでは後半天候に泣かさながらも足掛け3年がかりで北緯36度線のサイクリング計画の実行が完了した。次の計画のことなど考えながら家路を急ぐ。 |
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無事帰宅しテレビのニュースを見ていると先程通過した福井駅の改札が映し出され、台風の鉄道への影響を報じている。台風は今晩一晩で福井を通過するので明日は台風一過のいい天候が期待できる。一晩我慢すれば最大もう3日サイクリングが楽しめたかもしれないが、早く帰ってきたおかげで明日行われるサイクリングのパソコン通信のオフラインミーティングにも急遽参加できそうだ。 |