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おばさん達のだべっているのを横目で見ながら、早々に出発する。一人旅におとぎの国のイメージはいらないが、せっかく来たのだから高原の雰囲気を満喫していこうと、地図に唯一記された旧国道を走ってJR最高地点を目指そう。 旧国道の入口をやっと見つけ、ちょっといたんだ舗装の道をくねくね曲がりながら走る。自動車はほとんど来ない静かな道だ。県境付近の小高い所に来ると紅葉の林の向こうに八ヶ岳が見え、新国道を走る車の音がかすかに聞こえる。 |
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野辺山高原駅と清里駅間の県境付近が、JR最高地点である。旧国道の踏切付近には、立派な鐘を吊した最高地点を示す碑などがあり、ちょっとした観光地になっている。 観光バスが来て止まり大勢の人を吐き出し始めたので線路沿いの道を野辺山高原駅方向に走り始める。見てもわからないほどに少しづつ登っているので、本当の最高地点はまだ先である。 ほとんど平坦になったので、この辺に本当の最高地点を示すような目印が密かにあるのではないかと辺りを見回したが、期待外れであった。本当の最高地点は誰にも教えてあげない自分だけの秘密なのだ。 |
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野辺山高原駅付近は以前ドライブで来た時より随分土産屋等が増えたようだ。駅ももっと昔は素朴なものだったようだが、今では清里同様、おとぎの国の建物と化している。 国道141号線を北上して行くと高原からいきなり千曲川の流域まで下るために標高を下げる。道路はカーブを繰返して、ズンズン下って行くが、小海線は大きく迂回し千曲川と合流する。川,国道,鉄道がやがて平行に走るようになり、いくつかの町を通過するようになる。 |
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今度は日本の国道の最高地点である八ヶ岳の麦草峠を越えるのだが、稲子湯に向かう北緯36度線に近いコースを採用しようかどうしようか迷っているうちに登り口を確認できず、下りすぎてしまったようだ。かなり36度線からは北に離れるが、国道299号線を登ることにする。昼食をどこかで仕入れなければならないなと思っているとちょうどコンビニエンスストアーがあったのでおにぎり等の昼食を買い込む。 コンビニエンスストアーを出るとすぐに国道299号線の麦草峠への登り口に出た。わりと開けた景色の川沿いの道を登り始める。ずっと下ってきたためか、いきなり登りがきつく感じる。こんな調子では先が思いやられるなと、悲観的な気分で登り始める。まだ11時なので、最悪の時は、押して登っても暗くなるまでに20kmぐらいは移動できるのだと自分に言い聞かせながら登る。 |
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メルヘン街道とかかれた看板の標高表示を目印に休憩をコンスタントにとりながら登る。畑の中の道を八ヶ岳を正面に見ながら走っていると、段々山が迫ってきて遂に道はつづら折れの道に入る。今まで川沿いに直線的に登ってきたよりずうっと角度が緩いのか随分登りやすい。 途中に駐車場があって、自動販売機がたくさんある休憩所のようなところがあったので、昼食にする。木で作られた大きなベンチとテーブルがあって、食事にはおあつらい向きである。 十分休んで燃料(食料)の補給も十分だ。時折見せる青空と強い日差しに天候の回復を期待して走り始める。ほぼ100m登るごとに現れる標高標識を見るたび、腕時計の高度計とサイクルコンピュータの走行距離と地図を睨むことを繰返しながら走る。 |
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八ヶ岳に向ってくねくね登るルートが一段落し、標高をほとんど変えずに八ヶ岳と平行に南へ走る。これで離れすぎていた北緯36度線に近付くわけだ。この付近は八千穂高原と呼ばれる別荘地やレジャー施設が点在する。この時期の利用者は皆無なのか、人気のない道を少し重たくしたギヤで快調に通過する。 緯度がより36度ち近くになった地点から、再び八ヶ岳に向っての本格的な登りが再開される。途中、傾斜角度のパーセンテージが表示されるような急勾配のところを何度か通るが、短いせいかさほどきつさを感じない。頭の中で峠までの標高(約2,100mh)と、現在の標高の差分を計算しながらあと500、あと400と独り言を言いながら登る。 |
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小雨がぱらついてきて、小休止をしようと思っていたところに、珍しく前方にレストハウスが見えてきた。ここはちょうど稲子湯方面に下る道との分岐点だ。近道をすればここに出たわけだ。迷わず飛び込むと小海町営の施設らしく、町おこしの一環と言った感じの店だ。ストーブのそばに陣取り、汗で湿ったウインドブレーカーを背もたれに掛けて乾かし、ホットコーヒーを注文する。 外に出ると小雨がパラついている。少しリフレッシュした体にもう少しだと言い聞かせ、再び登り始める。ここからはまたつづら折れが何重にも続く道だ。例によって折り返す度に地図上の位置と標高,腕時計の標高を見比べつつゆっくり登る。 見晴らしがよく少し平坦なところに出た。つづら折れの道が終わり、ほぼ等高線に沿って麦草峠に向かう。少し行くと白駒池の駐車場に出た。ここから先は昔、反対側から峠を登り、往復したことのあるコースだ。 |
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| 麦草峠は日本の国道最高地点、国道299号が八ヶ岳を越える地点にある |
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ほとんど雲の中で視界が利かない中、峠に着いた。峠には普通の大きな青い道路標識に峠の名前と国道最高地点を記してある。車で来た若者2人が互いに写真を取り合っている。私もカメラをカードレールに止めてセルフタイマーで写真を撮ってさっさと下る。 峠のすぐそばにあったと記憶していた麦草ヒュッテがなかなか現れない。視界の利かない雲の中、見落としたのかなと思っていると、入口が見えた。久しぶりに見ると随分昔と印象が違う。こんなに大きな建物だったか。しかし入口から中に入ると、薪をくべるストーブを始め、懐かしい光景が目に入った。コーヒーを注文して一服し、蓼科クラインYHに電話する。「自転車ですか。自転車置場はありませんがいいですか?」ちょっと不思議な返事だったが、今日の寝ぐらも確保でき一安心 |
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草ヒュッテを出るとまた雨が強くなっていた。視界の悪さと濡れた路面のため、かなりの低速で下り始める。せっかく登ってきたのに景色は望めず、下りも楽しめないのはひじょうに残念だ。 ブレーキを引く手が段々痛くなってきた。下るにつれ視界も回復し、路面が段々乾いてきた。この付近は別荘地が多く、地図上でも細かな脇道が沢山あって、現在位置を確認しにくい。今日泊まる蓼科クラインYHはこのメルヘン街道から少し右に入ったところにあるが、麦草峠方面から下ってきた場合は明確な目印がない。入り口を逃すと、登って戻らなければならないので何度も行きすぎていないか確認しながら下る。 森の中のつづら折れの多い峠道が終わり、見晴らしのよい景色の中を直線的に下る道になった。快調に下って行くと目印の建築会社が目に入った。しまった行き過ぎた。100mほど来た道を登ると分岐点にちゃんと看板が出ていた。畑の中の農道に舗装したような道を入って行くと、ほとんど民家が無い。段々暗くなってきたので本当にこの道でよいのかと心配しながら登る。 林を抜けるとヨーロッパの民家をきれいにしたような建物が忽然と現れた。ここが 蓼科クラインYHだ。玄関の段差に自転車を立てかけて中に入る。手続きをしていると、自転車は建物に立てかけずに広場の方に置いてくれとのこと。電話したときに自転車置場はないよと言っていた意味がやっとわかった。以前、新しい建物の白壁が立てかけられた自転車で汚れ、トラブルにでもなったのだろうか。 |