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YHの前で記念写真を撮った後、諏訪湖岸まで下り、湖岸を少し東に戻る。湖に流れ込む川を越え、その川沿いに走るとどの辺まで来たのかわからなくなった。山並みを見る限り方角は間違っていないようだ。 適当に右に折れて山に向かって走り、山にぶつかったところで左に折れて山沿いに走って行けば諏訪大社上社本宮に行き着くはずだ。そう思いながら少し走ると交通量の調査をしているおじさんがいたので現在位置を地図上で示してもらい、大社までの道を教えてもらう。 |
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直進すると真志野峠を越えて辰野方面へむかうという交差点を左に折れ、山裾の道を快適に走る。石作りの傾いた小さな橋をいくつかくぐるうちに小雨が降ってきた。小休止がてらによく見ると、石作りの橋は山から水田に水を引く水路のようだ。 雨宿りを兼ねて高速道路の下で小休止をする。地形図は古くて高速道路が出ていないので、新しいモーターバイク用の携帯版ツーリングマップを引っぱり出す。どうも斜め前方に見える道が目的の旧道のようだ。 旧道にはいるとすぐに諏訪大社上社本宮の脇に出た。新道からは土産屋に囲まれた灯篭のある参道を通り境内となる。自転車を止めて順路に従い一段高い所に入ると、こじんまりとした境内を袴の女性が竹箒を手に落ち葉を掃いていた。 本宮の前で写真を撮った後、旧道を走り始めるとすぐに新道に合流した。またすぐに旧道に別れるだろうと走っていると前宮の入口に出てしまった。右に曲がり少し行くと諏訪大社上社前宮の正面に出た。 |
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前宮は今まで参拝した他の諏訪大社3宮に比べ全く観光地化されていないようだ。鬱蒼とした林の中に祭られている神様はさぞ静かで良かろうと思いながら、賽銭もなしでサドルから腰を外すことなく出発する。これが本来の神社の姿だろうが、ミーハーな観光客になりきっている今の私には物足りない存在ではある。 |
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再び山裾の道を走り、杖突峠の入口の交差点を右に折れ登りに入る。本格的な走りの始まりだ。まだ体が慣れていないこともあり、ペースを考えながら大きく曲がる道をゆっくり登る。 |
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初日からのまとまった登りに少々体が悲鳴を上げてきた。今日のコースは先が長い。早めに休憩をとりながらゆっくり登る。 |
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ふと前を見ると展望が開けたところにレストハウスがある。小休止がてら近寄って行くとなんと杖突峠と書かれた木製の碑が無造作に立てかけられていた。地図で確認しても、先の道が登っているのを見てもここは峠でないことは明白だ。しかし、車で来る観光客にはそんなことはどうでもいいことで、峠に到着していい景色が見られればいいのだ。ついでにコーヒーでもすすって行ってくれれば儲け物というのがレストハウスの目論見なのであろう。昨日話を聞いた車の彼も峠のピークの位置を誤認していたのはこの峠の碑のせいであろう。 空模様はあいかわらずの曇り空である。本来ここからは八ヶ岳がよく見えるのだろうなと展望につては想像にとどめ、再び峠を目指す。やはりまだまだ登りは続くようだ。やはり頼りになるのは地形図である。 |
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大きくコーナーをいくつか曲がるうちにピークに出た。展望の利かない峠である。これでは観光業者は見向きもしない。一応写真を撮ってさっさと下り始める。 峠らしいまともな下りはすぐに終わり、長いだらだら下りにはいる。私はこのパターンの下りが意外と好きで、体重にまかせてハイペースで集落を抜けて行くのだ。下りのスピードに気を使いながらバスの停留所の名称が目に止まる度に地図上で位置を確認するのだが、フロントバックの上で一覧できるのが数キロほどの5万分の1の地形図では自分の位置がすぐにはみ出してしまうのだった。 |
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高遠の町に入ると以外と観光客が多く小さなリュックを背負った人が目に着く。なにか観光資源でもあるのだろうか。交差点の信号で止められたのをきっかけに小休止をとる。 交差点を直角に右折して真西に伊那市を目指す。北緯36度線からは5万分の1地形図でちょうど1枚分南に外れてしまっているが、昔から行ってみたかった権兵衛峠をこの機会に越えるためにこのコースをとることにした。 |
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伊那市を南北に貫くJR飯田線を直角に横切り権兵衛峠の登り口である薮原という集落を目指す。地図で確認しながらくねくね曲がったりしているうちにミスコースをしてしまった。伊那谷の一番低いところにある市街地から少し登ってきた所なのでこのまま戻るのは惜しい。何とか登った標高を無駄にしないように少々遠回りのコースで予定のルートに戻る。 地図で見ると広い伊那谷であるが、市街地を抜けるとひたすら登りになる。本格的な登りに入る前にしっかり昼食を捕らねばと思い沿道に食堂など捜しながら登るが、進めば進ほどそのような店はありそうな気配を失って行く。 |
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道から少し入ったところに食堂の看板を掲げた店が見えたので、しめたとばかりに行ってみる。自転車を店の前に立てかけ、戸を引くと開かない。店の前で庭仕事をしている人に聞くとまだやってないとのこと。この先に食堂があるかと聞くと農協の手前を入ったところの食堂がやっているかもしれないとのこと。行ってみるととてもやっている気配がないような小さな家に食堂の文字が何とか読みとれる看板が出ているだけだった。 農協のマーケットは日曜のせいか営業していない。駐車場の脇にあるジュースや酒の自動販売機をたよって買い出しに来る地元の車がよく出入りしている。たまらず歩いてきたおじさんに食堂の在処を尋ねると、別の食堂を教えてくれた。とても店がありそうな雰囲気ではないので諦めつつ指さされた方面に向かうと住宅地の間にまたもや普通の家に看板を掲げたような食堂があった。 庭におばさんがいたので食事が出来ますかと声をかけると、はいはいといった感じで消極的な返事を返してきた。やれやれと自転車を庭木に立てかけて店に入ると一応テーブルと椅子があり、店の体裁をしていたのでほっとした。 親子丼を食べながら店のおばさんに峠の様子等の情報を仕入る。食後店のおばさんの激励ののち、ゆっくり登り始める。かなり角度が急になってきたが、本格的な峠の登りには入っていない。地図を読む限り山の側面をズリズリ登る峠道に入った方が角度は緩くなるようだ。 |
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前方にマウンテンバイクの2人組が見えた。彼らはゆっくり登っているようなので、すぐに追いつくだろうと思いながら登って行くと追いつくどころか差が開くばかりだった。途中に食事もできそうなしっかりとした宿泊施設があり、ここで食事をすれば良かったとがっくりしながらひたすらペダルを回す。 |
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なかなか予想通りにペースが上がらないが、標高が上がるにつれ伊那谷やその向こうの南アルプスの景色が見えるようになると気分的にはずいぶん楽になってきた。いつものことではあるが、地図と高度計と距離計をにらめっこしてどの辺まで登ってきたのかを考えながらの登りである。 |
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小休止をしていると地元の高校生らしき若者が登ってきて抜いていった。空荷とはいえさすがに地元の子供は力強い。休憩を終えて登り始めるともう峠まで行って来たのか今度は下って行く彼とすれ違った。 |
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道の脇に展望台らしきスペースが現れた。どうもここがピークらしい。展望はまあまあであるが、話に聞いて想像している旧道の峠とはイメージがずいぶん違う。今回初めてロングツーリングに参加した一眼レフカメラを何とか看板に止め、南アルプスをバックに写真を撮る。 |
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旧道の峠を目指して少し下る。追いつけなかったマウンテンバイクの2人組がちょうど折り返すところであった。どこかに車をデポしているのであろう、空荷で山の景色を楽しむために登ってきたようだ。 駐車場の脇に看板があり小道を入って行くと旧道の峠に出るらしい。自転車をトイレの小屋に立てかけ、歩いて旧道を目指す。少し歩いたところで反対側から来た人に声をかけられた。車で来ているらしく車道はここからどのぐらいかと聞かれた。私は逆に峠までどのくらいかと尋ねると、すぐそこと言うことなので、戻って自転車と共に旧道の峠に向かった。 旧道の峠は話に聞く通り水場もあり、時間が有ればかなりゆっくりして行きたいスペースだった。夏は木陰があり、冬は日だまりがある。先程道を尋ねた人は山登りをやるそうで連休にどこかの山を登り、帰京する際の渋滞を避けるために権兵衛峠に寄っておいしい水を仕入れ時間をつぶしているそうだ。山やサイクリングの話して楽しい一時を過ごす。 古畑権兵衛の碑の前で記念写真を撮り合い、旧道の峠を後にする。少し下るとすぐに新道に出た。この付近はトンネルの完成を待つため整備されていない国道になっていて、権兵衛峠からの下りの区間を除いては林道等の舗装路を差し置いて、未舗装の旧道が未だに国道指定となっている不思議な区間だ。時間がないので、姥神峠の入口の集落をパスして非国道区間を奈良井宿に向かって一気に下る。 |
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今晩は昔から高い評判の木曽旅情庵YHに泊まってみたかったが、このYHも例によって木曽の谷を通る国道19号線からかなり登った所に位置するようで、日没までには着けそうにない。ちょっと躊躇したが、今日は奈良井宿の民宿に泊まることに決め、トンネルをくぐらずに奈良井の宿場に向かって少し東北の方向に走る。 国道から奈良井の宿場にはいるとなつかしさがこみ上げてきた。もう11年前になるが自宅のある桶川宿から京都まで中山道の宿場づたいに走ったサイクリングでここは通ったことをはっきり記憶している。奈良井の宿を通過したときに木曽と言えば妻籠宿しか知らなかった私にとって感動の古い町並みであった。 |
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民宿の看板を捜しながら、宿場のメインストリートを京から江戸の方向に向かう。高級そうな旅籠の看板ばかり目に付き、たまに見かける民宿も宿泊料がかなり高いのではないかと勘ぐってしまう。宿泊案内などのサービスがあるのではと、宿場のはずれにある奈良井の駅周辺をうろつくが宿泊施設紹介の看板すらない。諦めてその辺の民宿に飛び込もうと線路沿いの裏道を戻り、再び表通りに出て、目に付いた民宿の戸を引いた。今日で連休も終わり、宿場も人気がなく寂しいので断られることを覚悟していたが、「こんにちは」の声に出てきたおかみさんの返事は「泊まれますよ」とのこと。今日は他にも泊まり客がいるとのことであった。 車庫に自転車を置くために、さっき走ってきた線路沿いの裏道に向かう。旧宿場の旧家の特徴である「うなぎの寝床」と呼ばれる間口が狭く土間がずうっと奥まで続いているような構造にこの民宿もなっていて、車庫は一番奥の裏道沿いにある。おかみさんの話だとこの民宿へは自転車でも多くの人が訪れるらしく、昔は某大学のクラブツーリングのため自転車が車庫に入りきらなかったこともあったという。昔からなじみのサイクリストもいるらしく、1人で飛び込みの私にいやな顔一つせずに親切にしてくれた理由が少し分かった様な気がした。 風呂から出ると程なく夕食の準備が出来たとの声。この民宿に飛び込んでから1時間ほどだというのに豪華な和食の数々が私を待っていた。思わずビールを頼み権兵衛峠付近から見た南アルプスを思い出し一人にやにやしながら空腹の胃袋に流し込んだ。 |