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朝食は取らずにコーヒーだけ飲んで、今にも泣き出しそうな曇り空の中、YHの前で写真を撮って、出発。 人気のない道を軽いアップダウンを繰り返して半島の先端を廻る。たまに人家を見かける程度のさみしい道だが、人に出会うと皆が手を振って挨拶してくれる。 |
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基本的にはスリー・ヘッド・ドライブに沿って走っているわけだが、当面の目標は、YHの管理人さんが言っていた礼拝堂である。いくつか角を曲がると、大きな広場が有り、観光バスが止まっている。ここが入り口かと、よく地図を確認すると、もっと先に礼拝堂により近い入り口がある。 狭い道を行くと、自家用車が止まっている。ここが入り口のようだ。自転車を止めて、他の観光客の後をついて石畳の小道を歩いてゆくと、石造りの三角形の建物があった。これが礼拝堂らしい。すぐ手前に小さな小屋があったので、料金所かと思ったら、完全に閉まっていて人気がない。 礼拝堂は思ったより小さく、中に数人も入ると狭くなるが、しっかりとした石がきれいに重ねられ、とてもがっちりできていている。入り口の反対側には、明かり取りか何かの穴が開いていて、光が差し込むようになっている。現存する礼拝堂としては、最古の部類に入る貴重な物らしい。 一通り見学した後、正確には、スリー・ヘッド・ドライブとは違うルートであるが、少々近道をして、ガラルス礼拝堂の脇の道から峠へ直登するルートを行くことにした。 |
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ガラルス礼拝堂の脇の道を行くと、すぐにきつい登りになった。すぐに峠だと言い聞かせてがんばって登っていると、生け垣のようになった木々に見慣れない花が咲いていた。あとで調べるとフューシャという花だそうだが、とても凝った作りをしていて豪華な花である。休憩がてらに、アップで写真を撮る。 車の音が大きく響いてきた。大型車両の通る道との合流が近いことがわかる。いま登っている近道と、スリー・ヘッド・ドライブとは、峠のちょっと手前で合流。大型のタンクを積んだ車が目に入った。 |
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峠で休憩をすることもなく、ほぼ一直線の道を一気にディングルの町に向かって下る。あっと言う間に昨日通った道とディングル湾近くで合流した。 ディングルの町はにぎやかだ。スーパーマーケットにて昼食になる物を仕入れる。土地柄か、魚の食材が沢山あり、日本のスーパーマーケットを彷彿させる。パンやサラダ,ヨーグルトの他、量り売りの小魚の酢漬けのようなものがあったので、あわせて購入する。 ディングルの町を出ると、すぐに、最大にして最後の難関、コーナー峠へのアプローチが始まる。最初はまっすぐな道で、これから登るべき先が、しっかり見える。どこまで休憩せずに登ることができるか、がんばってみることにする。 前方につぶのような人影が見えてきた。どおやら同じ方向に歩いているようだ。だんだん角度がきつくなってきて、かなりのスローペースになっているので、なかなか追いつかない。やっとのことで追いつくが、抜くのもゆっくりなので、お互い顔を見ながらの挨拶をする。 |
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登りはじめて1時間ほどで峠に到着。これだけ峠らしい峠はこれまでのルートには無かったので、今までにない充実感に包まれる。峠の頂上は広くなっていて、しっかりとした駐車場があり、車が数台止まっている。峠を通り過ぎる風が強く冷たいが、なんとか風の弱いところで昼食を広げる。 昼食を食べながら、ふと駐車場を見ると、東洋人の中年夫婦が車から出てきた。身なりからして日本人に違いないが、アイルランドに来て日本人を見かけるのは、キラーニーの町中以来である。 私が登ってきたのと反対側から、マウンテンバイクのアベックサイクリストが到着。アベックといっても中年夫婦だが、旦那の方は大荷物を積んだトレーラーを引いている。彼らは、オーストラリアから来て、サイクリングを楽しんでいるとのことだが、荷物が多すぎて、自転車に負担がかかりすぎるために、途中でトレーラーを調達したとのこと。彼らがこれから下ることになる、私が登ってきた側の坂の角度をしきりに気にするので、何故かたずねると、荷物が多すぎて下りのブレーキが心配だとのことだ。 オージーご夫妻と記念撮影を取り、彼らが下るのを見送って、反対側に下りはじめる。地図で見ると、峠の北側には、小さな湖が点在しているはずだが、等高線がぎっしり詰まった切り立つ山々に阻まれ、一部の湖しか確認することができなかった。この辺はアイルランドでは数少ないダイナミックな山々の景観の楽しめる地域の一つだ。登りの苦労を一気に発散しないように、のんびり景色を見ながら下る。 道は主要道路の割には細くなったりしながら、徐々に高度を下げ、海岸線に近づく。海岸線に近いところまで来ると、無機的にかつ、直線的にひたすら東に向かって走るようになる。途中、海の見えるところにも出るが、天気がさえないこともあり、あまりおもしろい景観ではない。だんだん交通量が増えてきたなと思ったところで、ディングル半島の付け根に到着。川を渡る付近で、ほぼ直角に左折。トラリーの街は近い。 |
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トラリーの街の手前にビジターセンターがあったので、休憩がてら寄ることにする。広い駐車場に、大きな建物があり、ちいさな美術工房のようなものが並んでいて、工芸品など展示してある。奥に入ると食堂のような広々としたカフェテリアがあり、カウンターでアップルパイとコーヒーを購入して休憩する。もう少しで終わりの時間なのか、カウンターのおばさん、嫌々対応している感じがする。 トラリーは鉄道の起点の町であるが、その鉄道とは別に、昔実用されていた鉄道があるようで、今は観光用に蒸気機関車が走っているとのことだ。運河沿いに走り、その運河を横切ると、すぐに町の中心部に着いた。トラリーはそこそこ歴史のある街のようだが、観光客にとっての見所はあまりなさそうな街だ。 |
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目的のフェネガンス・ホリデー・ホステルに到着。メインストリート沿いにある立派な建物だ。建物内部は、古い調度品があり、歴史の古さを感じる。入り口付近にいたマネージャーらしき男性に泊まりたい旨告げると、部屋に案内してくれた。宿泊料は、受付窓口の方に支払い、シーツを受け取ってくれとのことで、少々いい加減な感じだ。ケンメアでもそうだったが、あまり堅苦しくせず、人件費をかけないのがホリデー・ホステルのやり方なのだろう。 自転車を止める場所を聞くと、通常よく見かける、建物と道路の間に、地下の明かり取りようような溝があるが、そこに駐輪しろとのことだ。このような建物場合、納屋が建物の一部にあることが多いが、どおやらそうではないらしい。人目に付かないといえばウソになるが、柵を越えて持ち上げることは簡単ではないので、大丈夫だろう。 自転車でトラリーの町をぶらぶらしてから、明日は早朝の列車でダブリンに行くので、念のためトラリー駅を確認しに行く。帰路、時間的にほとんどの小売店は閉まっているようだが、裏手にテスコという名のスーパーマーケットを見つけたので、夕食の買い出しをすることにする。かなり巨大な店で、食材があれこれあり、何を作ろうか迷いながらあれこれ買い込んでしまった。閉店間際の見切り品の安売りスープなんて言うのもあり、ついつい購入。 |
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ホステルに戻って、早速食事の準備。肉を焼き、付け合わせの野菜を炒め、フリーズドライのライスを戻し、スープを温め、リッチな気分で、食卓に着く。久しぶりにまともに料理をした。見た目と比較して、肉の味は・・・。まあまあとでも言っておこう。 部屋に戻ると年上の紳士が窓際で本を読んでいて、目が合うと、声をかけてきた。日本人だというと、この町で、日本人と思える女性2人組を見かけたという。2人でそれは珍しいとうなずき合う。彼はアメリカ合衆国から来た大学の心理学の教授で、3ヶ月の長期休暇で、友人知人を訪ねたり、学会関係の機関に寄ったりしながら、ヨーロッパをあちこち旅しているそうだ。ユーレイルパスが使えない英国巡りは程々にして、アイルランドの鉄道が通っている街等を見学しながら移動しているとのこと。 狭い部屋には、二段ベッド2つがあり、シャワー兼トイレが備え付けられている。隣のベッドの上はどおやら女性だとのこと。こちらのユースでは、男女混合の部屋があるとの話は聞いていたが、本当にあるのだなと、少々どきどきする。もっとも、彼女は遊び歩いていたらしく、かなり遅くなってから、ベッドに潜り込みに来ただけである。 |