嫌になるほど長い距離を下って、やっとケンメアの街の入り口に着いたようだ。リング・オブ・ケリーへの分岐点を直進して、町の中心部に向かう。
今日泊まるところは、ユースホステルの協会に加盟しない自由な宿、インディペンデント・ホリデー・ホステル(略称IHH)である。町の中心部を横切り、いちばん奥まで行くと、曲がり角の正面にその宿はあった。
入り口と思われる所を入ってゆくと、受付があるが、誰もいないので呼び鈴を押す。ちょっと待っていると、白いスポーツジャージをまとった女の子が来て受付してくれた。部屋を指示してくれた程度で、ほとんど説明がなかったが、これで十分だということだろう。自転車を納屋に収納して、外したバッグを持って部屋に転がり込む。同部屋のバックパッカー2人は荷物をベッドの下に押し込んで、外出しているらしい。
このIHHの宿は、形式は様々なようであるが、YHと同じレベルの宿が多く、YH利用者にとっては安心である。IHHの一覧が掲載されているパンフレットを受付のカウンターからもらってきたが、協会のYHに比べ、あちこちに沢山あるのがわかる。この資料は後の宿泊予定を立てるのに有効だ。
少々街をうろつき、1人でも夕食が楽しめそうな場所を探すが、結局は見つからない。宿は例に漏れず、自炊設備は整っているので、自炊することに決め、食材を買い出しに行くことにする。かろうじてこの時間でも開いていた食料品店に滑り込み、今晩の夕食と明日の朝食分以外にも、これから多用するであろう自炊に備えて、かさばらない物でいろいろ使い回しができそうな食材を買い込む。
夕食はお手軽に缶詰のスパゲッティーなどで済ませて、ビールでも飲みにパブに行くことにする。気の利いたレストランは見つからなかったが、パブなら1人でふらっと入ることができるだろう。いいや、是非ともこのひなびた街で、アイリッシュパブを体験してみたいものだ。
買い物に出たときに目を付けていた、安ホテルの1階にあるパブのドアを空けて中に入る。ビールを注ぐ機械のあるカウンターに座り、女将さんにラガービールはどれか尋ねて、ハープというブランドの物に決めて注文する。町中でよく見かける楽器のハープ印の緑色のヤツだ。アイルランドといえば、ギネスビールだが、船の中で飲んだので今度はラガービールをという訳だ。
女将さんと、日本から来たとか、サイクリングしているなど、おきまりの話をし始める。日本人は勤勉で頭が良いという評価をしてくれたが、休暇の過ごし方も知らない頭の悪い人が多いのだと教えてあげた。隣に座っていた、すでにできあがっている地元のおじさんが話しかけてきて、オレは日本の会社に勤めていたんだぜ!!と得意げである。よく聞くと、日本の自動車メーカーのディーラーで働いていただけらしい。
女将さんにこれからのサイクリング予定ルートを話すと、リング・オブ・ケリーの後のディングル半島へのルートは道が悪いとのこと。距離もそこそこ有るようで、他によいルートがあるかどうか、他の客と相談していたようだが、他には良いルートはないようだとの結論。後でこのことを思い出すことになる。
マスターとおぼしき人が出てきて、カウンターにある怪しげな機械を指さして、自慢げに話す。ワインオープナーだとのこと。カウンターに設置された機械なのだが、ハンドルを操作するだけでワインのコルク栓を抜くことができるようで、かなり古くて珍しい物だそうだ。
話をしている内に、あっと言う間に時間が経ってしまった。アイリッシュパブを体験し、地元の人と話をして満足。ほろ酔い気分で、YHのベッドに戻り暴睡したのであった。