峠に近づくと、雪もかなりの量になり、横殴りにふぶき始める。すでに視界は10メートルほどになって、前方のコーナーも見えなくなった。自分の位置の判断がいい加減になり、ひたすら前へ自転車を押すことに集中する。
大きく左に曲がるコーナーに差しかかったとき、ふと建物が見えた。峠にあるホテル兼カフェである。いさんで自転車を壁に立てかけ、体に着いた雪をはらってカフェにはいる。着ている服を乾かすため暖房のそばに座り珈琲をたのむ。
店内は薄暗く、歓談する地元の農家の人々とバスで来たのか観光客の家族一組がいるだけ。それと大きなセントバーナードが1匹敷物のように床に寝ている。かわいい顔をしているので頭を撫でてあげたいが、デカイので噛みつかれたらおしまいだと思いやめてしまった。
相変らずふぶいているので、ろくに写真も撮らず峠を下り始める。少し下るとすぐに雪がやみ、周りの絶壁のような山々がよく見えるようになる。
小雨が降ったりやんだりする中をひたすら下る。途中、滅多に車が通らないからか、牛数匹が牧場の柵を出て、道を占拠して寝ている。写真をとろうとカメラをだすと、こちらを睨んでモーモーとうるさく鳴きながら立ち上がろうとする。怖くなってカメラをしまい、素早く牛の横をすり抜ける。
下って行くとやがて道の舗装がとだえ、白い石灰をまいたようなダートの道にはいる。ダートの手前にはやらないレストランのような建物があり、ホースを道に向けて固定し、水をまいている。その水をよけようとして、柵にサイドバックを引っ掛けそうになり転倒してしまった。自転車を倒して人間だけとびだしたので怪我はなかったが、かなり低速であったにもかかわらず、荷物が重いせいかフロントホイールに歪みが出てしまった。