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部屋の前で写真を撮って、鍵を返してチェックアウトし、珍しく早めに宿を出る。今日は、マタンサスまで走りたいが、少々距離があるので、早めに出ることにしたのだ。 グアナボ浜の町中を出ると、町を迂回しているハイウェイと合流するわけだが、その合流を避けて、なるべく裏道を行く。朝もやの中、方向だけ間違えないように、当てずっぽうに裏道を行くわけだが、海とハイウェイの狭い区間を走っているわけだから、いずれ道は、ハイウェイに合流するだろう。 |
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裏道はついには、ハイウェイと合流し、左に海を見ながら、ひたすら海岸線を走る。途中、なにやら、海に飛び出した小さな島があって、橋で繋がっている。レストランか観光施設なのだろうか。ハイウェイ沿いには、広い駐車場があって、クリスタルというビールのブランド名がテントに大きく書かれた、飲み物などを出す簡易店舗が出ている。少々休憩をして、ふたたび走り始めると、今度は、はるか前方に大きな煙突が見えてきた。かなり巨大な煙突で、近づくのに時間がかかったが、近寄ると、大きな工場があった。そして、その先には、コヒマルで見た団地を、もっと大規模にしたような集合住宅地があった。明らかに工場に勤める人のための住居だろう。この光景は、本当に一昔前の日本を想像させる。やっぱり高度成長期の日本は、今と比べて、労働者階級の画一化されたイメージがあり、それはキューバの共産主義体制と共通する部分があるな。等と考えながら、ペダルをまわす。 |
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朝食を食べずにそれなりに走ってきたので、腹が減っている。右側に、レストランらしき店が見えたので、迷わずブレーキをかける。 店の敷地内に、パトロール・カーが数台止まっていて、警察官がうろうろしている。少々戸惑いながらも、自転車を止めてお店に入るが、警察官は観光客には用がないようで、私には目もくれず、早々に引き上げていった。逃げている犯罪者でも追いかけているのだろうか。 この店は、日本で言えばドライブインの様な感じで、ちゃんとした建物と、茅葺きのオープンな感じのスペースがあったので、そちらの席を確保し、ホットサンドイッチと、コカ・コーラもどきを頼む。サンドイッチは、まあまあの味だ。おまけに付いてきたバナナを揚げたものは、塩味で悪い味ではないが、硬すぎて食べるのに難儀した。 このお店は、観光客相手の商売をしているようで、キューバ音楽のCDや、チェ・ゲバラやクラッシックカーの絵はがき,ガイド・ブックなど、観光客相手の土産も沢山売っている。その売り場の間を、店の子供だろうか、2人の女の子が飛び回って遊んでいて、テレビでマンガが始まったとたんに静かになったのが印象的だった。 |
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ここからすぐに近いと思っていたが、ジバコア浜の入口は、昼食をとった店から、5kmぐらい離れていた。分岐点からジバコア浜方面に行くが、道はいきなり狭くなる。しかし、道はロンリー・プラネットのサイクリングガイドの通りなので、安心だ。このジバコア浜は、ハイウェイから少々離れているが、バック・パッカーに人気があるような、隠れたビーチ・スポットのようだ。 |
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すぐにジバコア浜に到着した。そんなに大きくないが、奇麗なビーチで、地元の子供たちが遊んでいる以外は、ほとんど誰もいない。キューバにはこんな浜が沢山あるのだろう。写真を撮って、走りはじめようとすると、地元の人に声をかけられた。着ているTシャツには、レスキューと書いてあり、なにやら、海の安全管理をしている人のようだ。この人も英語がうまく、今日の行き先などの話をして、ジバコア浜を後にする。 |
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ジバコア浜から東に向かうと、宿泊施設らしいものがあり、その敷地の脇の道をずっと行くことになる。先ほど見たビーチも立派でとても奇麗だったが、この宿泊施設を見る限り、もっと広範囲にそのようなビーチが広がっているのかもしれない。 その施設の正面玄関のようなところから、立派な道が延びていて、再び、ハイウェイ、ビア・ブランカと合流。ここからは、マタンサスまで、ひたすらこのハイウェイを走ることになるのだ。交通量はそれほど多くないのに、どの車もガソリンをまき散らすように走るので、排気ガス臭いに我慢しながら走らざるをえない。 |
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終始、向かい風に泣かされる。そして、海岸線に近いところを走っているのに、いやに登りばかりが多い。 沿道の景色は、殺風景で、乾いていて、町も店も無く、暑さで水の消費は増え、ついには水が無くなった。たまらず、ほんの数軒建物のが有る集落にある、屋根付きのバス停での日陰に入って休憩する。 |
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マタンサスの街自体はまだまだ先だが、マタンサスの地域に入ったようで、それを示す大きな看板が道路脇に建っていた。その向こうに、クリスタル・ビールの看板を出した店が有ったので、これ幸いと飛び込む。大瓶はないので、仕方なく小瓶の水を2本買って、うち1本を、がぶがぶと、一気に飲み干す。生き返った。アイス・キャンディーも買い、涼を取る。 |
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売店を出ると、前方に巨大な橋が見えてきた。ここが上りのピークのようで、大きな谷をこの巨大な橋で跨いでいる。その橋を渡りかけて、振り返ると、橋の手前に展望台が有るのが見えた。橋のたもとまで戻って、自転車を止めて、展望台への階段を上ると、上にはレストランや土産屋があって、展望台からは、谷とそれを跨ぐ巨大な橋を見下ろすことが出来る。この谷を流れる川は、左側に流れて海に注ぐのだが、地図上ではそれほど海から離れていないとは言え、これだけ深い谷になっていると言うことは、谷の両脇はそれなりの標高があり、その分、海面からこの高さまで登ってきたということになる。向かい風でもあったが、今までの登りの苦労を納得し、これから、海沿いのマタンサスの街までの下りを期待させる。 |
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今日は、ピークからマタンサスまで下るだけだ。マタンサス湾に近いところまで下ってくると、2人乗りの自転車に2人乗りした地元の労働者の若者が、追いかけてきて、私に声をかけてきて、ビールをおごってくれという様なことを言っている。それと、「ワン・ダラー」「ワン・ダラー」のくり返しだ。何を言っているか解らない振りをして、一人のかぶっている帽子の「HONDA」と書かれたロゴマークを指さし、それを話題にすると、この帽子が欲しければ売ると言う。スピードを出して振り切ろうとしたが、離れず、しつこく追いかけてくる。このままマタンサスの街まで付いてこられると、面倒だなと思っているうちに、自宅方向なのか、途中から左の脇道に別れていった。 マタンサスの湾が見下ろせるところまで下ってきて、進路をやや南に向けると、マタンサスの街が見えてきた。かなり大きな街だ。この街は、コロンブスがキューバで最初に上陸した所で、歴史も古く、立派な建物が多い。街の中心部に向かって走っていると、宿の客引きらしき人が、走ってついてきて、今日の宿は決まっているのかなどと、声をかけてくる。しかし、いちいち止まるのも面倒なので、手をふって、不要だと意思表示して、走り去る。 |
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マタンサスにある2つのホテルのうち、町の中心の公園の前にあるホテル・エル・ルビレに到着。シングル・ルームは満員で、ダブルでおまけに冷房のない部屋しか空きがないと言う。他に探すのも面倒なので、その部屋に泊まることにする。部屋の中の調度品や、照明などは、歴史的に古そうで、とても豪華だ。きっと革命前からのホテルの資産だろう。 案内してくれた人の話だと、水は今から止まるが、シャワーを浴びたいなら一時的に水を出してくれるとのこと。お願いして、出してもらう。トイレを見ると、便座がない。どうやって、用を足せというのだろうか。従業員に問いつめるが、無い物は無いというだけだ。どうやら、歴史的に古く格式のあるホテルのようだが、革命後に壊れたり消耗した物の修繕というものが、ほとんど出来ないようだ。昔から有る調度品はかなり良い物で、それゆえに簡単には壊れないが、トイレなど、水回りを始め、革命後に設置されたものは、とても貧弱ですぐ壊れ、そのまま放置されているという印象が拭えない。 夕食に出ようと、1階に降りると、ホテルの従業員から、夕食なら、このホテルにあるレストランで食べろと奨められる。街の様子を見ておきたいので、買い物をして戻ってくるからと言い残して、外に出る。ガイドブックを頼りに、同じ通りにあるインフォメーションに向かうと、インターネットと書かれていて、パソコンが置いてあった。資料などはとても貧弱で、係員の女性に地図が欲しいと言うと、一つ取り出して見せてくれた。マタンサスの街と、明日向かうバラデロ等、この付近のいくつかの街の地図が掲載されているので、有料だが購入した。 良さそうなレストランがあったら、ホテルではなく、そこで食べようと思い探すが、これといったレストランは見つからない。うろうろしていると、裏通りに小さな商店があったので、水を購入するべく入ってみる。表示された値段を見てびっくり。1.5リットルの大瓶でも、1ドルしない。本当に地元の人向けの店なのだろう。他にも、コカ・コーラもどきの大瓶を買って、ホテルの部屋に戻り、食事をするために、結局1階のレストランに行く。 レストランの中は薄暗いが、内装はまともで、テーブルや、椅子はしっかりしたもので、派手ではないが歴史を感じる。適当に肉料理と、ビールなどを頼む。料理は貧弱だが、皿やナイフやフォークは、使い込まれているが、それなりの質を感じるものだった。豚肉に里芋のようなものが添えられていたのが、印象的だった。 |